【澁澤栄・精密農業とは】農作業判断の意思決定は集団で-コミュニティベース精密農業-2019年6月11日
精密農業の意思決定で最も重要なのは農作業判断だ。農作業の判断には4つのステップがある。当たり前のことではあるが、ゆっくりと考えてみてほしい。
最初のステップは、現状の記録。位置と時間と事実の膨大なデータにもとづいてほ場のばらつきを克明に記録し、地図に描き観察する段階だ。これは、決して先入観や平均値で観察しないことが重要である。この作業ステップでは、ICTやセンサ技術を開発し、活用する技術者が重要な役割を担う。
第2の作業ステップは、ほ場のばらつきを理解する判断レベル。「ばらつき」がなぜ現れたのか、原因は何か、無視してよいのか、対応は可能なのか、など多方面から解釈し判断の文脈を準備する。統計解析(人工知能推論も含む、AIともいう)は有益であり、専門家や技術者が活躍する場でもある。
第3の作業ステップは、農作業の行動を選択する判断レベル。農場の経営者がその任を担う。判断の基準は、収益、収量、環境負荷や労働負荷(遵法農業)、後継世代への接続、農家や地域の志向などを考慮した総合特性になり、なかなか数値で表すのは難しい。
収益向上では、市場や消費者のニーズへの対応が重要な判断基準になる。また、経営の第三者である専門家や技術者が直接介入する余地はない。第4の作業ステップは農作業の実行と評価であり、農場の経営者がその任を担う。
慣行農法では第1と第2の作業ステップが無視されがちで、農業への新規参入者は4つの作業ステップすら知らないまま新技術の導入を計ることがある。技術の開発と技術の運用は全く別の作業であることに注意しなければならない。
◆判断は集団作業になる
農作業判断をできる人々が、農法転換をめざす精密農業の担い手といえる。実際、無農薬栽培をしようとしたら、隣の畑の耕作者に農薬散布を注意してもらわなければできない。まさか自分だけ農薬を使っていないからといって、無農薬野菜であると、根拠もなしに宣伝する農家はいないだろう。それほど日本の農地は狭くて、隣人の農作業に強い影響を受けている。
すなわち、日本のような小規模で分散したほ場における農作業の判断は、農業者とその家族や出荷団体が普及組織や販売業者との相談の上に行われている場合が多い。
また、数千ヘクタールもあり同業者もいない大規模農業では、管理者である農場主が農作業を判断するが、日本では農場主であっても、地域の家族経営の集団と協調しながら農作業を判断する必要がある。
一例として、埼玉県本庄市の学習集団「本庄精密農法研究会」が導入した精密農業の実例を紹介する。目標は、「情報付きほ場」と「情報付き農産物」を作ることだ(図2)。
このケースでは、生産者のホームページの公開、QRコードの利用、消費者との対話、農作業情報の共有などに取り組み、小売店舗で顧客からの信頼を得ることができた。 また、地元のJAに研究会の事務局を依頼し、民間企業に農家のニーズを伝えた。さらに、地元自治体のモデル事業に積極的に参加し、農林水産省の知的財産戦略立案などにも貢献した。
そして最後は、地元農家との連携協力だ。公開の学習イベントを開発し、2010年には全国から2500人の活動的な認定農業者を集めた全国農業担い手サミットを開催し、中心的な役割を果たした。
このように長い時間と幅広い協力を得ながら、地域の農法転換が行われていくのだ。ドイツや米国などの諸外国にも同じような取り組みがある。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日