【澁澤栄・精密農業とは】15年前の夢:精密農業を導入したある農家の一日2019年7月9日
精密農業のイメージを説明してほしいという問い合わせが続いている。そこで2002年に架空の農業者を想定して作ったフィクション(精密農業、朝倉書店刊)の要旨を参考にしてほしい。地域や消費者へ常に情報を開示し、確固とした信頼関係を形成しながら作業を進めていく様子を描いた。実際のほ場観測にはじまり、適切な判断と実行、その経験を営農知識バンクとして蓄積していく作業が勘どころだ。
精密農業を取り入れた農家の作業環境
【場面設定】
主人公は、精密農業を導入した知的農業者集団「紫陽花」のリーダー、キク。大学の農学部を卒業後、アグリビジネスの専門職大学院に進み、農業法人「胡桃」に就職して5年、現在、専務取締役だ。「紫陽花」は15の農業法人から構成され、地域の農地2000haを管理。そのうちの100haは市民農園に提供し、500人が利用している。
【事件発生】フェロモントラップの警報
初夏のある夕刻、ほ場の異常を告げるアラームがスマホに入った。画面をのぞくと、地域全体に張り巡らせた"フェロモントラップ"からの警報だった。
フェロモントラップとは、揮発性物質を利用して害虫のオスを誘因駆除するための仕掛けで、センサーネットワークにより、害虫発生数の地域分布が一目瞭然となる。
【対策】ネット会議
キクは表示画面を見ながら、害虫発生数が異常に増えたのは高速道路沿いのA地区で耕作放棄地の隣、水田と路地野菜の畑がいくつかあることを確認。「紫陽花」の窓口であるモモに連絡を入れた。
モモは大学院卒で「胡桃」に就職したばかり。精密農業に意欲を燃やしている。キクはまず、技術プラットホームの事務局長であるフジに連絡し、A地区の現地調査を指示した。
続いてA地区の情報を閲覧すると、「高速道路沿いの草刈りが1週間前に行われたこと」「イネの分げつが始まったこと」「野菜移植が行われたこと」「翌日と明後日は曇りで微風」「居住区からも離れているので空中散布が可能であること」などの情報をフジにメイルした。
一方、モモはA地区に農地をもつ農業法人のウメとナシに連絡を入れ、PFネット会議(※)をしていた。成育中の作物マップ、土壌肥沃度マップ、過去の収量と品質のマップを閲覧し、「昨年も同じ時期に害虫の異常発生があったこと」「土壌窒素が多くて作物が徒長ぎみであること」を確認。そこで、A地区の追肥を50%減らし、作業計画を変更した。
※いまでいうスカイプやLINEのようなテレビ会議。PFはPrecision Farming(精密農法)の略
【判断と実行】
翌日の昼前には、フジからキクに現地調査の結果がもたらされた。害虫はイネとキャベツに被害を与え、その規模は約1haでほ場3枚分。耕作放棄地も害虫が拡大していること、対応農薬リスト、農薬散布サービスのリストも付けてあった。
キクはウメとナシに連絡し、判断を待った。すぐ返答があり、近くに無農薬栽培ほ場はなく、幼稚園の遠足もないことから、低コストのドローンによる農薬散布を決断。耕作放棄の元農家にも連絡と了解を取った。
その判断を受け、キクはドローンサービス会社に農薬散布を発注。ほ場の緯度経度、農薬の種類と散布密度、また散布後のほ場写真を要求した。
地域イベントのホームページには農薬散布の時間と場所を掲示し、フジにもこの決定を報告した。報告を受けたフジは、A地区から生産される農産物の履歴欄に農薬散布の項を設け、消費者への通知を準備した。
【営農知識バンク】
フェロモントラップの警報から農薬散布の実行およびその評価の作業は、フジらが管理する営農知識バンクに登録され、そのデータと情報は、知的農業者集団「紫陽花」が共有して利用することができる。フジとモモは手分けして、特別養護老人ホームに隠居した老農に一連の判断と行動のコメントをもらい、営農知識バンクを豊かにしている。
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