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【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(139)「彼我」と「権利」2019年7月12日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 相手と自分、あちらとこちらのことを「彼我(ひが)」という。「彼我の勢力」「彼我の力量の差」などの表現は現在でもよく使われる。現代社会ではグローバルな視点と同時に足元のローカルな世界をも同時に考えなければならないことが多い。米国と日本、日本と中国、米国と中国、米国とEUと中国と日本、などの関係に思いを寄せる際、つい漢語の「彼我」を思いだす。

 「彼我」という言葉はかなり古いようだ。軽く検索しただけで、万葉集と(土井本)『周易抄』という2つの文献に行き当たる。便利な時代である。
 万葉集では巻17に、大伴家持の晩春三日遊覧一詩という七言の詩がある。この中に、「縦酔陶心忘彼我 酩酊无處不淹留」という表現が出てくる。書き下し文では「縦酔陶心、彼我を忘れ、酩酊し、淹留せずということなし」と読める。周りを気にせず気の向くままに酔いしれて、酩酊し、行く先々で足を留めないことはない」というような意味であろう。ここでは「彼我を忘れ」は「相手と自分のことを気にせず気の向くままに」としたが、要は相手と私の日頃の面倒なことなど考えずに...という感度であろう。これはこれで優雅で良い話である。
 また、漢詩の原文最後の一文字「留」は、14文字前の「流」、28文字前の「舟」、42文字前の「遊」と見事に韻を踏んでいるので、ご関心のある方は原文を探してみられると面白いであろう。
 検索でヒットしたもう一方の『周易』は古代中国の四書五経、その中の五経のひとつ『易経』の解説本である。『周易抄』というから簡単な抜粋なのかと思うと大間違いで、6巻物という。こちらは室町時代後期の1477年に、柏舟宗趙(はくしゅうしゅうちょう)の述べたものを書き留めたもので口語仮名抄(片仮名交りゾ体)と言うようだ。
 関西大学の市原靖久氏によると、口語仮名抄は中世後期の日本語の用法を知ることができる貴重な資料であり、『周易抄』の現存写本(土井本)の中にある「権利」という表現が、「漢語『権利』の日本での最も早い用例であると考えられている」() という。
 さらに興味深い点は、当時の「権利」の意味について、本来は漢籍の意味である「権力と利益」のはずが、現代の用法に近い「物事を自由に行なったり、他人に対して当然主張し要求することのできる資格」というような意味の解釈も行われているらしい。市原氏は本来前者の意味で理解されねばならぬはずの「権利」が後者のように理解された理由を概念史という観点から考察している。ご関心がある方は本格的な論文だが原文をご参照願いたい。読み物としても興味深く時間を忘れる。
 
 さて、この短いコラムで言えることは限られる。相手と自分のことを意味する「彼我」という言葉は、少なくとも8世紀、万葉集の時代から我が国でも使われており、酒に酔って「彼我を忘れ」ることが素晴らしいとされていたようだ。裏を返せば、現実は常に「彼我」を考えなければいけないということであり、これは大昔から変わっていないということでもある。
 さらに、もうひとつの「彼我」の出典として示された『周易抄』の中の文章「彼我がなければこそよけれ。彼我がなければ山河大地も動も静も太極でない」、これは漢の文学者であり哲学者でもあった揚雄が書いた「解嘲」という文章の中にあるというが、漢語の原文まで今日の私には確認できていない。
 わかることは揚雄の生没年は紀元前53年から後18年。万葉集も1000年以上前だが、それよりはるか前から人々はお互いに「彼我」を気にして生きてきたということか。

) 市原靖久「『権利』の古典的意味と近代的意味-土井本周易抄『私―権利八爵ゾ』をてがかりに-」、関西大學法學論集、64(3-4)、2014年、125頁。

 

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