【浅野純次・読書の楽しみ】第40回2019年7月16日
◎望月衣塑子/前川喜平/マーティン・ファクラー
『同調圧力』
(角川新書、907円)
日本は世界屈指の同調社会でしょう。ルールを守らぬ仲間を村八分にしたかつての農村社会もそうですが、これは田植えや刈り入れなど共同体としての必然性もありました。
それはともかくとして今、政治やメディア、そして社会的にも個々を同調させようという圧力が強まっていることは大問題です。自分の意見を持たず、権力を持つ者に忖度し、メディアでいえば他紙他局と横並びの報道をしていれば事足る状況が蔓延しているのは憂うべき状況でしょう。
本書はそうした状況を厳しく追究(および追及)するジャーナリストと元官僚による3つの論考と鼎談から構成されています。いずれも非常に説得力があり、貴重な警世の書となっています。
著者たちがみな力強く生き生きしているように見えるのは面白いところです。たぶん全員がしっかりと個を確立させていて、自分の座標軸を持っているからだと思います。だから読後感もからっとした感じでした。
ちなみに望月さんは東京新聞記者で菅官房長官から嫌われて有名になり、前川さんは「面従腹背」の前文部次官、ファクラーさんは元ニューヨークタイムズ東京支局長。最近聞かなくなった気骨という言葉を思い出しました。お勧めの一冊です。
◎佐高信/朝堂院大覚
『日本を売る本当に悪いやつら』
(講談社+α新書、950円)
異色の組み合わせによるとても面白い対談本です。佐高さんは歯に衣着せぬ左翼の評論家、朝堂院さんは佐高さんに言わせると(逮捕歴3回の)「最後のフィクサー」で(対談相手としては)「率直なところ敬遠したい存在」だったそうです。
確かに戦後日本の裏街道を歩いてきた(とはいえ政治家、財界人からヤクザまで幅広い人脈を持った)知る人ぞ知る著名なフィクサーが率直に語るエピソードや裏事情は、平凡な記者生活を送ってきた私などには目からウロコの話の連続で、へえ、そうだったのか、を連発しました。
後藤田正晴、石原慎太郎、亀井静香、森喜朗から、徳田虎雄、許永中、麻原彰晃、そして日産ゴーン事件、神社本庁まで、一気に読ませます。
注目されるのは安倍政権批判の厳しさです(評価も極めて低い)。国民はやせ細り、政権は金融庁によって銀行を支配して安倍も麻生も菅も自由にカネが使えるようになった、というのが朝堂院さんのご託宣です。こちらもぜひお読みください。
◎畠山重篤/聞き手鵜飼哲夫
『牡蠣の森と生きる』
(中央公論新社、1404円)
ではこの辺でぐっと趣向を変えて海と森の話を。「森は海の恋人」ですっかり有名になった気仙沼のカキ養殖漁師である畠山さんの半生記です。聞き取りをした読売新聞の記者がまとめました。なのでとても読みやすく、子どもの頃の体験がカキに全生涯を賭けていく上でどう生きたのかがよくわかります。
赤潮によってカキが全滅した話、海から遠望していた室根山に植林することで海を豊かにすることに気づかされ行動に移していく経緯、3・11大津波で壊滅したカキ棚を再建していく話、フランスのカキ養殖を見聞して学んだ自然の重要さ。その他、エピソードから教えられることの数々はどれも印象的です。
海は海だけで成り立っているように思いがちですが、海が森と川によって育まれているのを知ることはとても重要なことです。里山と田畑とが一体となって豊かな海がある。農林業と漁業が深くかかわっていることに改めて感じ入りました。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日