【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(141)「草食系○子」と「肉食系○子」2019年7月26日
恋愛や出世、金儲けなどにガツガツしない人のことを「草食系○子」と呼び、逆を「肉食系○子」と呼ぶことはかなり定着した感がある。こうしたイメージはある一面を非常に上手く反映していることが多いが、その影響で本当の姿が歪められることも多いため、注意が必要である。
例えば、「肉食民族と草食民族」のような対比を持ち出すと、どうしても欧米は肉食系、アジアは草食系...のようなイメージが付随することが多いが、これも大きな誤解であろう。肉食と言っても、その対象が羊や山羊、牛などのように一度の出産において基本的に1頭しか生まない動物と、豚のように多産の動物、あるいは鶏を含む鳥類のように成長サイクルが短く実質的に多産となるような動物とでは歴史の中での食用としての位置づけが異なると考えた方が良い。
前者の多くは、例えば牛のように搾乳や農耕の補助的な役割を持つなど、純粋な食用以外の目的のもとに飼育されていた、あるいは野生動物のような人間の生活場以外の場に住んでいたものである。これに対し後者は、基本的に食用として意図的に生活場の中に飼育されてきたことが中心という点に大きな違いがある。人々は大昔から自分たちが生きていくための食料として、地域と環境などの条件に応じた農耕と狩猟、そして家畜飼育のバランスを考えてきたということだ。
ところで、「豚は従来は西アジアで8千年前にイノシシから家畜化されたと考えられていたが、中国大陸ではそれ以前(1万年以上)に家畜化された可能性が高い」(注1) と言う。太古の昔の人類と豚との関係を想像するのは難しいが、西アジア地域に住んでいた人々の中心が遊牧民や農耕民であったことを考えると、まずは多産ゆえに食用として人間との共生、そして普段は日々の食事の後の掃除を担う役割などではないかと考えられる。
仮に養豚の起源が8000~1万年前の中国とすれば、中国人にとって豚肉はまさに穀物とならぶ伝統的食物のひとつと考えて良いであろう。その豚肉の中国における消費動向は近年どうなっているのか、FAOの数値を追ってみた。
下の図は、1961~2013年までの中国の1人・1年当たりの食肉消費量(kg)の推移である。ここで食肉とは牛肉・豚肉・鶏肉の合計とした。
1970年代までは3品目の合計が年間10kg程度だが、その後は豚肉を中心に急増し、2013年時点では57.6kg(内訳は牛肉5.2kg、豚肉38.6kg、鶏肉13.7kg)である。かなり粗いまとめだが、1970~80年代までの中国で「肉」と言えば豚肉のことを示したが、それは1人・1年当たりの年間消費量約10kgのうち8kg以上を豚肉が占めていたことからもわかる。
これが1990年代になると20kg水準となり、2004年以降は30kg水準、そして現在は40kg水準に届こうかという勢いである。アフリカ豚コレラ(ASF)の影響で一時的にその速度は鈍る可能性が高いが、人々の生活水準の向上と食肉需要の増加が密接にリンクしている限り、基本的な傾向は変わらないと考えられる。
(出典:FAOSTATより筆者作成)
将来的に中国の豚肉消費がどこまで行くのかは意見が分かれるかもしれないが、その議論は別の機会としたい。参考までにFAOの同じ統計を示すと、2013年の米国は113.9kg(牛肉36.2kg、豚肉27.6kg、鶏肉50.0kg)であり、日本は49.1kg(牛肉9.2kg、豚肉20.6kg、鶏肉19.4kg)である。ちなみに世界の平均は40.3kg(牛肉9.3kg、豚肉16.0kg、鶏肉15.0kg)である。日本の1人・1年当たりの食肉消費量は世界の平均以上ではあるが米国の半分以下である。また、すでに2004年以降は中国が日本を上回っているという点を再認識しておきたい。
それにしても、ユダヤ教やイスラム教の豚肉食禁忌は純粋に宗教的な理由からであろうが、そもそもの意図の中に、将来的に増大する豚肉需要とその維持管理コストを予想した古の賢人達の知恵が埋め込まれていたのかもしれないと考えると歴史は興味深い。実際、中国に限らず現代の養豚はこのチャレンジをどう乗り越えるかの試練に直面しているからである。
注1:森田琢磨・清水寛一編『新版 畜産学』(第2班)、1993年、10頁。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
プロの農業サービス事業者の育成を 農サ協が設立式典2025年10月21日
-
集落営農「くまけん」逝く 農協協会副会長・熊谷健一氏を偲んで2025年10月21日
-
【サステナ防除のすすめ】水稲除草剤 草種、生態を見極め防除を(1)2025年10月21日
-
【サステナ防除のすすめ】水稲除草剤 草種、生態を見極め防除を(2)2025年10月21日
-
随契米放出は「苦渋の決断」 新米収穫増 生産者に「ただ感謝」 小泉農相退任会見2025年10月21日
-
コメ先物市場で10枚を売りヘッジしたコメ生産者【熊野孝文・米マーケット情報】2025年10月21日
-
【JA組織基盤強化フォーラム】②よろず相談で頼れるJAを発信 JA秋田やまもと2025年10月21日
-
【中酪ナチュラルチーズコンテスト】出場過去最多、最優秀に滋賀・山田牧場2025年10月21日
-
11月29日はノウフクの日「もっともっとノウフク2025」全国で農福連携イベント開催 農水省2025年10月21日
-
東京と大阪で"多収米"セミナー&交流会「業務用米推進プロジェクト」 グレイン・エス・ピー2025年10月21日
-
福井のお米「いちほまれ」など約80商品 11月末まで送料負担なし JAタウン2025年10月21日
-
上品な香りの福島県産シャインマスカット 100箱限定で販売 JAタウン2025年10月21日
-
「土のあるところ」都市農業シンポジウム 府中市で開催 JAマインズ2025年10月21日
-
コンセプト農機、コンセプトフォイリングセイルボートが「Red Dot Design Award 2025」を受賞 ヤンマー2025年10月21日
-
地域と未来をさつまいもでつなぐフェス「imo mamo FES 2025」福岡で開催2025年10月21日
-
茨城大学、HYKと産学連携 干し芋残渣で「米粉のまどれーぬ」共同開発 クラダシ2025年10月21日
-
まるまるひがしにほん 福井県「まるごと!敦賀若狭フェア」開催 さいたま市2025年10月21日
-
北〜東日本は暖冬傾向 西日本は平年並の寒さ「秋冬の小売需要傾向」ウェザーニューズ2025年10月21日
-
平田牧場の豚肉に丹精国鶏を加え肉感アップ 冷凍餃子がリニューアル 生活クラブ2025年10月21日
-
誰もが「つながり」持てる地域へ 新潟市でひきこもり理解広める全国キャラバン実施2025年10月21日