【近藤康男・TPPから見える風景】尊敬されない国、信用されない大統領との貿易交渉2019年9月12日
短期的には中国への影響が先行だろう。しかし、工場閉鎖・解雇を始め製造業・農業・輸送業中心に景況感の悪化(9月4日米地区連銀報告など)、貿易赤字全体での拡大(19年1~6月期▲4121億ドル、前年同期▲4005億ドル)、中国との取引企業の4割以上が影響を受けて販売減(米中ビジネス評議会6月調査)など、トランプ氏の政策は裏目に出ている。
ファーウェイ排除も、ハッキリ追随したのは豪州・日本・台湾・(一部?)ベトナムくらいだろうか。
◆通商交渉でも貿易でもない、エサ用トウモロコシ275万トン追加???輸入
ご存知の方も多いが、トウモロコシは自由化品目であり、輸入数量約1500万トンの大半の需要はエサ用だ。そしてエサ用以外への利用が出来ないよう加工することを条件に、配合飼料用は関税定率法で免税(関税ゼロ)、その他のトウモロコシ(大半の食品用含め)も関税割り当ての範囲内で関税はゼロ、それを超えた場合に50%あるいは12円/kgのいずれか高い金額が課税される。自由に輸入が出来る中で、人間であれ家畜であれ食べられる量を超えて追加輸入というのはあり得ない。国内備蓄もされている。必要数量は自由に輸入でき、保管料補助の必要性も低いだろう。手っ取り早いのは税金投入による海外援助くらいだろうか? しかしエサ用は食用とは別モノだ。
国内産のエサ用トウモロコシについては私自身あまり承知していないが、輸入は全て濃厚飼料用の粒、国内産は基本的には茎・穀粒を含め全体を利用する(ホールクロップサイレ―ジ)粗飼料用と、用途も利用部位も異なるはずだ。害虫の被害を受けた国内産対策なら、時期的な問題はあれエサ米のホ-ルクロップサイレージ利用の検討の余地はなかったのだろうか?
私自身の経験からも、また総合商社に尋ねても「自由貿易の下で政府に言われての追加輸入はありえない」と首を傾げるばかりだ。よほどの政治的・経済的な見返りが無い限り、貿易を歪めるやり方に民間が動くとは思えない。
さすがに"協定"ではないようだが、それでも外務省公表の会見録を読むと、8月25日の首脳共同記者会見ではトウモロコシが大きく取り上げられていることが分かる。
◆青天井の日米交渉が続くことは無いのか? CPTPP11ヶ国との6条見直しは?
「全てに合意した」「日本が余ったトウモロコシを全て購入」「興奮している」とラッパを吹くトランプ・ライトハイザ―氏に対し、日本側は"合意"とは一切言わず、安倍・茂木氏は「意見の一致」と繰り返す一方、「ウィンウィンの形」「有難う」と言うだけだ(共同記者会見)。そして与野党、メディアからの疑問に、政府は「押し切られたとの指摘は全く当たらない」(8月26日菅官房長官)「バランスのとれたとりまとめ」(29日茂木担当相)と素っ気ない。
内容の公表が無い中で、報道から伝わるのは、「TPP11ヶ国に対し割り当てた乳製品の低関税枠」が米国には見送られたこと、米国産のコメの無税枠設定の詰めを継続したことを除けば、自動車の追加関税は「今の時点では考えず」(トランプ氏)と確約されず、日本車の関税は「継続協議」、その他の工業製品も詰めはこれから、とハッキリしない中、米国産牛肉の緊急輸入制限発動基準は緩和(TPPと合算すると発動は不可能に)している。
CPTPP11ヶ国との"6条による上記発動基準見直し"交渉をしないまま米国との合意を先行しており、米国の最大のライバル豪州は、「牛肉の緊急輸入制限発動基準数量見直しは考えていない」(8月26日豪農相)とつれない。
トランプ大統領は平気で前言を翻し新たな脅迫を迫る常習犯だ。NAFTAも韓米FTAも見直された。政府が誇らしげに持ち出す18年9月の日米共同声明の第4項では「協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする」とあり、18年12月公表の22項目のUSTR「対日交渉目的」はTPPと同じ分野+アルファで構成され、America First=Trump First=TPP越え、の内容に溢れていることを忘れてはならない。
◆説明・協定内容の公表もないまま署名・国会承認へ突入か?
報道によれば、政府は年内国会承認も目指しているという。しかし、TPP以降次第に政府による内容説明・資料の公表は少なくなったが、大筋合意から署名までは数ヶ月以上掛けている。その中で今回の日米交渉は最も悲惨だ。通商交渉や国政の情報は本来国民のモノという原則は完全に無視されている。
仮に9月末に合意署名、10月4日から12月前半までの臨時国会で承認を目指すとしたら、国民も議員も目をつむって印鑑を押せと強要するに等しい。
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