【小松泰信・地方の眼力】マッチポンプにご用心2019年10月2日
「アスリートに敬意がない。多くのお偉方がここで世界選手権をすることを決めたのだろうが、彼らはおそらく今、涼しい場所で寝ているんだろう」と、レース実行に踏み切った国際陸連を皮肉ったのは、陸上世界選手権(カタ-ルの首都ドーハで開催)の深夜の女子マラソンで5位のマズロナク選手(ベラルーシ)。(YAHOO!ニュース、9月30日9時20分配信)
「ドーハの悲劇」が起こらないことを願うばかり。
◆ゾーゼーの悲劇
マズロナク選手の皮肉になぞらえれば、「人々に敬意がない。多くのお偉方が消費税増税を決めたのだろうが、彼ら彼女らはおそらく今、涼しい顔をしてお買い物でしょう」となる。
「LITERA」(9月30日9時57分)は、10%への消費税増税について、「10月7日に発表される8月分の景気動向指数の基調判断では3・4月分につづいてもっとも悪い『悪化』に修正される可能性も指摘されているというのに、そんななかで増税を決行するなど、はっきり言って正気の沙汰ではない」と斬り捨てる。
そして、安倍首相の元ブレーンであった藤井聡氏(前内閣官房参与、京都大学大学院教授)が『大竹まことゴールデンラジオ』(文化放送、9月24日)で語った、「何で消費税が上げられているかといえば理由は簡単で、法人税を引き下げたことによる空いた税金の穴埋めさせられているんです。たとえば、大企業さんとか、有名な鉄鋼企業さんとかね、有名なインターネット企業さんとかね、何千億、何兆円と売り上げていらっしゃるような大企業が数百億円しか税金払ってないんですよ。完璧な税金対策をおこなってですね、利益を全部出さんようにして、税金をほとんど払っていない。こういったところの補填を、庶民がさせられている」という見解を紹介している。ちなみに、ソンは名字だけでいいようです。
毎日新聞(10月1日10時48分)によれば、消費税率10%への引き上げについて、安倍首相が記者団に対し、「(増税分を財源に)子どもたちからお年寄りまで全ての皆さんが安心できる全世代型社会保障制度改革を進める。その大きな第一歩になる」と語り、増税による景気への影響については「しっかりと注視し、万全の対策をとっていく考えだ」と述べたそうだ。
万全の対策は、増税ではなく減税、そして税金をまともに払っていないブラック企業からしっかりとること。
そもそも万全の対策が必要なものを仕掛けた輩が対策を講じる。これも、立派なマッチポンプ。ゾーゼーの悲劇は起きても、「社会保障の充実」はない。
◆寄り添われても迷惑。臭いから
万全の対策といえば、同紙(10月1日21時15分)は、日米貿易協定の最終合意を受け、官邸で開いた対策本部の会合で安倍首相が「農家の不安にもしっかりと寄り添い、万全の対策を講じていくことが必要だ」と述べ、関係省庁に対し農業対策の見直しなどを指示したそうだ。
万全の対策が必要なものをホイホイ決めることがおかしい。そして、トランプ臭がするので寄り添わなくても結構。
日本農業新聞(9月27日付)の一面で、内田英憲氏(同紙編集局長)は、この共同声明について、「この行為が、日本の農業を、かつてなく厳しい国際競争にさらすことになると肝に銘じるべきである」と、バッサリ。さらに首相が会見で、「両国の消費者、生産者、そして勤労者、全ての国民に利益をもたらす」と成果を誇ったことに対して、「日本と米国の農家の利害得失はバランスが取れているのか」と、問いただす。そして、「日本の農業にとっての真の防衛ラインは国内生産に影響が出ないようにすることだ」として、「生産基盤の再建・強化こそが安倍政権の責務」と、宿題を突きつける。
同紙の論説においても、「トランプ米大統領にごね得を許したのではないか」「相互利益というならば、牛肉や豚肉などでTPP水準の関税引き下げをしたことへの見返りはあったのか」と、説明を求めている。情報開示に関しても、「情報提供は民主主義の前提であり、国の責務だ。野党が要求した閉会中審査も開かれず、国会軽視との批判は免れない」と指弾する。
◆一般社団法人全国農業協同組合中央会は政権の傀儡と化すのか
日本農業新聞の論調は危機感にあふれる厳しいものであるが、同紙の2面では、自民党の森山裕国会対策委員長が農業団体には「ご評価いただけた」と語ったことを伝えている。もちろんJAグループ抜きの農業団体は考えられない。JAグル-プの誰が、どこを評価したのだろうか。
その記事の下方にある「大綱基づく対応求める 全中・中家会長」という見出し記事が答えを教えている。日本農業新聞の解説や論説との温度差を感じる、紹介するに価しない代物。悲しいかな、一般社団法人に降格されたJA全中が政権の傀儡と化すことを予感させるものである。
農民運動全国連合会(農民連)が9月26日、当該協定の「合意」に抗議し、国会承認阻止、日米FTA(自由貿易協定)交渉の中止へ、あらたなたたかいを呼びかける声明を発表したことを、しんぶん赤旗(10月1日付)が伝えている。「主権国としての尊厳を投げ捨てた屈辱的・亡国的外交に満身の怒りを込めて」抗議し、TPP11、日欧EPA、そして今回の協定が締結されれば、「かつて経験したことのない異次元の農産物市場開放」となることを訴えている。魂の置き所が決定的に違っている。
◆畜産業への影響と米国との関係
琉球新報(9月27日付)の社説は、「特に海外の安い牛肉や豚肉との競争がますます拡大することとなり、県内畜産業に影響が出ることが懸念される。......大規模牧場経営でコスト面の競争優位性がある米国の畜産業を相手に、手間をかけて牛を肥育する日本の畜産農家が、関税の引き下げで打撃を受けるのは必至だ。飼料価格が上昇傾向にあるなど経営コストが増している中で、生産者の事業継続の意欲をそぐことになりかねない。牛肉や豚肉の価格が安くなることは一般家庭には恩恵と感じるかもしれない。だが、輸入農産物との価格競争で国内産の消費が減り、相場全般が下がれば、農業の比重が大きい山間部や離島の雇用、経済を確実に衰退させる」ため、沖縄県の経済にとっても無視できないとする。
さらに、「(トランプ流の)手法にまんまと乗せられた日本政府の弱腰は将来に大きな禍根を残すものだ。トランプ外交も交渉に勝利したように見えて、長い目で見れば友好国との間にしこりを生み、米国の国益を損ねることになるだろう」とし、「今回の貿易交渉の経過と結果を分析し、米国との関係を考え直す機会とすべきだ」とまで踏み込んでいる。
アメリカとの関係に苦しみ、翻弄されてきた地域に拠点を置くジャーナリズムの意地と矜持が伝わってくる。
「地方の眼力」なめんなよ
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