【浅野純次・読書の楽しみ】第43回2019年10月15日
◎宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書、792円)
非行少年なんて関係ないと思われる方が多いかもしれませんが、認知力にかかわる極めて重要な問題を本書は提起しています。
認知とは、知識の獲得、学習、表現、推論など、多くは小学校から中学校で徐々に習得していく領域です。これなしに、人は社会とうまく折り合っていくことができません。
ところが非行少年の大半は、殺人、傷害、窃盗などの非行に走る犯罪少年・少女というよりは、認知能力の低さによって偶発的に犯罪に染まってしまう人たちのようです。
本書のカバーに象徴的な絵があります。非行少年に丸いケーキを3等分させたところ、まず半分に切りその片方をまた半分にした、という。「等分」の意味が全くわかっていないし、線描も不安定の気配が感じられます。
ともあれ非行少年の多くは小学2年で授業についていけなくなり中学校で非行化し始めるようで、自分が悪いことをしているという意識はないらしい。児童精神科医である著者が関わった多くのケースが紹介されていて身につまされます。
これは少子化以上に大問題であり、義務教育のあり方を真剣に考えないと日本の将来は心配です。今年屈指の問題提起の書として、広く読まれることを期待したいと思います。
◎田中雄一『ノモンハン責任なき戦い』(講談社現代新書、990円)
ノモンハン、ご存じですか。もちろんですよ、昭和14年だったかに日本軍がモンゴルでソ連軍に大敗した事件でしょ、という方が多いかもしれません。でも詳しく知ると、そこには今の私たちが参考にすべき事柄がたくさんあることに気づかされます。
本書はNHKスペシャルで放映された記録をもとにディレクターが執筆したものです。ためにモンゴルの戦跡を訪ね、ソ連の記録を掘り起こし、関東軍の関係者にインタビューしたりと、多方面から事件(正確には日ソ戦ですが)を再現していて、興味津々です。
そこから浮かび上がるのは、関東軍と東京、双方の参謀の無責任体制、日米戦争と瓜二つの戦力の差を無視した戦争、何の戦略もなく戦われた「無駄な戦争」(旧軍人の証言)などです。
過去の戦争から学ぶことはたくさんあります。そして局地戦争といえども偶発的に始まり、多くの犠牲者を生んでしまう。戦争を知らない75歳以下の人たちにぜひ読んでもらいたいと思います。
◎澤地久枝『昭和とわたし』(文春新書、880円)
著者は幼少の頃、家族とともに満州に渡り16歳で「棄民」となって命からがら引き揚げてきます。戦後のどん底生活の時代からノンフィクション作家として活躍する現在まで、90年近い人生を、折々の文章を集めて構成したものです。
芯のしっかりした少女だった面影は現在に至るまで通底していて自分を飾るという気配はなく、家族や社会に対して感じたことを率直に語っているところは好感が持てます。
中でも強く訴えてくるのは、戦争が庶民の生活をいかに惨めなものとするかということで、それは、憲法問題だったり、3・11だったり、秘密保護法だったりという形でも述べられています。
向田邦子さんはじめ多くの作家との交友抄も各人各様の人間性が浮かび上がるようで楽しい。いちばん印象に残ったのは小説を書かない著者の誇りについての記述です。そこには事実から離れることを良しとしない強い緊張感がありました。
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浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
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