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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2019.10.18 
【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(152)ASFと中国の豚肉輸入見通し一覧へ

 2019年10月10日、米国農務省からアフリカ豚コレラ(ASF:African Swine Fever)を踏まえた上で、2020年の中国、韓国、フィリピン、ヴェトナム各国における食肉消費量の見通しが公表された。フロントページの要点は以下のとおりである。

【中国】2020年は、ASFの影響による大規模な生産量減少に伴い、動物性タンパク質の価格高騰とともに、家禽肉の生産増加と他の食肉生産量も記録的な水準が見込まれる。具体的には牛肉と家禽肉の消費増加が見込まれるものの、豚肉消費の減少を補うには不十分である。牛肉・豚肉・鶏肉の一人当たり消費量は12%低下する。
【フィリピン】豚肉生産の減少に伴い、家禽肉の生産と、家禽肉および豚肉の輸入が増加する見込みである。家禽肉の供給量増加は、豚肉消費を上回るであろう。牛肉については中国からの供給に伴う競争と高価格により、輸入も消費も低下するであろう。一人当たりの食肉消費は1%低下する見込みである。
【韓国】ASFの発生が最小限に抑えられていることと、バイオセキュリティが強固なため、韓国の豚肉生産への影響は最小限に止まると考えられている。生産量の増加と食肉輸入の増加により一人当たり食肉消費量は3%増加することが見込まれている。
【ヴェトナム】豚肉生産量は6%減少するため、家禽肉と豚肉の輸入量増加が見込まれる。一人当たり食肉消費量は2%の減少が見込まれている。

 さて、以上は米国農務省が年に2回公表する内容のまとめだが、これら一見淡々とした数字を、もう少し具体的にイメージしてみることの方が興味深い。
 例えば、2020年の中国の場合、2019年と比較して、豚肉の生産量は25%減少、消費量は22%減少、そして輸入は35%増加とされている。具体的な数字を示すと、生産量は2019年の4650万トンから3475万トン(▲1175万トン)へと減少し、同期間の消費量は4897万トンから3815万トンへと(▲1082万トン)減少する。これにともない豚肉輸入量は260万トンから350万トン(+90万トン)増加する。数字としては概ね釣り合っているようだが、ここはもう少し注意深く見ておく必要がある。

 第1に、これは単純に今年と来年の比較である点だ。中国の豚肉生産量は2015~18年の単純平均で見た場合、5508万トンであり、2018年も5404万トンである。つまり近年の中国では豚肉量そのものが概ね5500万トン水準であったことを基本にすべきである。その場合、2018年からの生産量減少で見ると、2020年の3475万トンは▲36%、▲1929万トンということになる。要は、過去2年間で中国の豚肉生産量は約2000万トン減少したと言えば、その深刻さがわかる。これが時系列、すなわち「縦」の変化である。

 第2に、それならば今後、中国は豚肉をどのくらい輸入することになるのか。ここで重要なポイントはそもそも世界の豚肉貿易量がどのくらいかである。輸入と輸出では時期にズレがあるため各国の輸入数量合計の推移を見ると、2018年は791万トン、2019年は897万トン、そして2020年は996万トンである。同じ時期の中国の豚肉輸入数量は、156万トン、260万トン、350万トンである。中国以外の各国の輸入数量は、多少の増減はあるが620~630万トンでほぼ一定である。つまり、豚肉貿易量の急増は明らかに中国の輸入数量増加を反映しているということになる。これが「横」の変化である。

 筆者がよく使用する米国農務省のデータの場合、需給状況が毎月発表される穀物・油糧種子と異なり、畜産物は年に2回(4月・10月)である。そのため、今回の発表で中国の豚肉輸入数量をどこまで上積みするかについて、かなり前から関心を持っていたが、350万トンという数字が出てきた訳である。
 因みに、同じ発表で中国の飼養頭数(swine stocks)は、2018年の4億4159万頭から2019年には4億2807万頭、そして2020年には3億1000万頭へと大きく減少することが見込まれており、こちらは2年間で▲30%である。いくつかのメディアが少しずつ報道を始めているが、中国国内における豚や豚肉価格の動向にも目を離せない。同時に、そもそも年間800~900万トン規模である豚肉の国際貿易マーケットに、過去2年間で約2000万トンの生産量を失った需要国が一部ではあっても参入するということのリスクと重みを我々は十分に理解しておくべきであろう。今のところ、日本国内の豚肉価格はそれなりに落ち着いているが、今後は中国の豚肉輸入動向にも少なからず影響を受ける可能性があることは間違いないと考えられる。


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