【森島 賢・正義派の農政論】新しい朝鮮の生みの苦しみ2019年11月25日
この夏、韓国は日本に対して、これまでの日韓軍事情報協定であるGSOMIAの破棄を通告してきた。実際に破棄する期限は、先日の23日だった。しかし、その期限の僅か6時間前に、大方の予想に反して継続を決めた。
期限のぎりぎりまで決断できなかったのは、それほどまでに、韓国国民の苦悩が深かったからだろう。
苦悩とは、米国からの、継続せよという激しい要求と、反日的といわれる多くの国民からの、破棄せよという強い圧力の間で揺れる文在寅政権の苦悩だ、と多くの評論家がいう。
だが、この認識は浅薄である。表層しかみていない。深層には朝鮮の将来、北朝鮮を含む朝鮮半島の未来を見据えた、国民の真剣な眼差しがある。
こんどのGSOMIAの継続は、未来へ向かう戦略の失敗を認めた後退なのか、それとも、この戦略へ向かう2歩前進のための戦術的な1歩後退なのか。ここでいう戦略は何を意味するか。
韓国の対日関係をみると、この夏の、日本に対する協定破棄の通告は、その深部に徴用工の問題がある。戦争中に日本に徴用された韓国人労働者に対する損害賠償問題である。
ここには、韓国が日本に対して、この徴用工問題について、心の底から十分に反省していない、という疑いが根強くある。
それが底流にあって、いまや日韓関係は戦後最悪の状態にある。日本製品の不買運動は、韓国の各地で行われている。また、韓国からの日本観光客は、以前の3分の1にまで激減している。
◇
一方、韓国の対米関係をみると、東アジアの新冷戦といわれる中で、米国は、韓国が米国側から離れる懸念をもっている。そして離れないように執拗な、かつ強烈な圧力をかけている。
米国は、日韓の関係が険悪になれば、それは日米韓の軍事的な協力関係が揺らぎ、新冷戦の相手の中国や北朝鮮を利する、というわけである。
ここにはトランプ大統領の、極東の安保についての軽視を、米政界の中枢部が懸念している、という事情もある。
◇
韓国は、このような対日関係と対米関係の挟間で、苦悩している。こんどのGSOMIA問題は、この苦悩が表面化したものである。
そしてこの苦悩は、韓国の格差社会の深化と深く関わっている。格差社会から脱出して明るい未来を拓くためには、対日関係をどのように改善するか。対米関係をどのように再検討するか。さらに、新冷戦の中で、東アジアの大国である中国との関係をどうするか。また同じ民族である北朝鮮との関係をどうするか。そして新冷戦後のアジアの中で、どんな位置に立つか。
◇
これは日本にとっても重大な関心事である。それは新冷戦後の日本の位置づけにも密接に関わっている。そしてこれが、GSOMIA問題で、韓国が日本に突き付けた問題である。格差による社会の分断を放置し、助長する側に立つのか。それとも、格差解消のために、経済的弱者の側に立つのか。
ここで、日本の野党に問いたい。格差解消のために、農業者などの経済的弱者の側に立って懸命な努力をするのかどうか。まさか、政府、与党が、清廉潔白な政治さえ行えばいい、政策はどうでもいい、というわけではあるまい。
◇
*** 追記 ***
昨日の香港区議選は、いわゆる民主派が、予想以上に圧勝したうようだ。中国の歴史を、大きく一歩前へすすめた、といっていいだろう。
幹部の1人が「香港人の勝利だ」といっていた。「中国人」に対する勝利、と言いたいようだ。ここに危惧がある。
1つは、今後も「中国人」と敵対するのか。
もう1つは、どんな自由と民主主義を目指すのか。
いわゆる民主派は、いまの中国社会の根本問題である格差問題について、それを、どうしようとするのか。格差が米国的な自由と民主主義の必然的な帰結であることについて、どう考えるのか。それを「中国人」と話しあい、理解しあうことによって、さらに大きく歴史を前進させることができるだろう。
今後も、新しい中国の生みの苦しみが続くかもしれない。しかし、期待をもって注目していきたい。
(2019.11.25)
(前回 5G問題から見える社会主義の優位)
(前々回 中米間抗争のゆくえ)
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