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コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2019.12.26 
【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】消費者支援は農家支援-米国の「至れり尽くせり」は驚異的一覧へ

国産支えたくても買えない

 「牛丼、豚丼が安くなってよかったと言っているうちに、がんなどの病気が増えて、いけない、国産の安全・安心な肉を食べないと、と思ったときに、牛肉・豚肉の自給率は1割台になっていたら、もう選ぶことさえできない。牛肉の自給率はすでに35%程度、豚肉も40%台。このままでは1割台は遠くない。自由化は農家には申し訳ないが消費者にはメリット、というのは間違い。国産の安全な食材を守ることが国民の命を守る」と話すと、
 「鈴木さんの話はわかるが、低所得世帯が増えていて、高くても安全な国産がいいとわかっていても、安い方に手が出てしまう現実をどう改善できるのか」という切実な問いかけがセミナーなどでしばしば返ってくる。

◆米国農業予算の64%は消費者支援

 そこでどうするか。1つのヒントは米国にある。米国は、コメを1俵4000円*で売っても1万2000円*との差額の100%が政府から補填され(*価格は日本円での例示)、農家への補填額が穀物の輸出向け分だけで1兆円規模になる年もあるほど、農家への所得補填の仕組みも驚くほど充実している。
 ところが、驚くのは早い。もう1つのポイントは消費者支援策である。米国の農業予算は年間1000億ドル近いが、驚くことに予算の8割近くは「栄養(Nutrition)」、その8割はSupplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)と呼ばれる低所得者層への補助的栄養支援プログラムに使われている。2015年には、米国国民の約7人に1人、4577万人がSNAPを受給している(鈴木栄次http://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/170900_28cr02_02.pdf)。
 SNAPの前身は1933年農業調整法に萌芽をみたフード・スタンプ・プログラムで、1964年にフード・スタンプ法で恒久的な位置づけを得、2008年にSNAPと改称された。受給要件は、4人世帯の場合は、粗月収で約2500ドル(純月収約2000ドル)を下回る場合は、最大月650ドル程度がカードで支給される。4人家族で純月収が1000ドルだと、650-1000×0.3=350ドルの支給と計算される。カードは、EBTカードと呼ばれ、EBTの機器を備えた小売店でカードで食料品を購入すると買物代金が自動的に受給者のSNAP口座から引き落とされ、小売店の口座に入金される仕組みになっている。

◆消費者の食料購入支援策=米国の最大の農業支援策

 なぜ、消費者の食料購入支援の政策が、農業政策の中に分類され、しかも64%も占める位置づけになっているのか。この政策の重要なポイントはそこにある。つまり、これは、米国における最大の農業支援政策でもあるのである。消費者の食料品の購買力を高めることによって、農産物需要が拡大され、農家の販売価格も維持できるのである。経済学的に見れば、農産物価格を低くして農家に所得補填するか、農産物価格を高く維持して消費者に購入できるように支援するか、基本的には同様の効果がある。
 米国は農家への所得補填の仕組みも驚異的な充実ぶりだが、消費者サイドからの支援策も充実しているのである。まさに、両面からの「至れり尽くせり」である。
 SNAP政策の限界投資効率は1.8と試算されている。すなわち、SNAPを10億ドル増やすと社会全体の純利益を18億ドル増加させる効果がある。そのうち3億ドルが農業生産サイドへの効果と推定されている。

◆国産購入補助金の導入

 日本の農業政策にもこうした視点を取り入れるのが有効と思われる。特に、国産農産物の購入にインセンティブを与える形で、こうした消費者支援策を工夫すれば、「鈴木さんの話はわかるが、所得が減って、安全な国産がいいとわかっていても、安い輸入品を選ばざるを得ない現実をどう改善できるのか」という切実な問いかけに応える一つの方策になる。
 「国産」購入の場合のみ使える仕組みにできれば最も効果的である。

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