【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(165)ハゲタカからの「お誘い」2020年1月24日
どこの世界にもあることだが、「楽をして結果を出したい」という心の隙間に付け込む人や組織がある。大学教員の世界では、月に何回か海外から微妙な「お誘い」が届く。多くの「お誘い」は読まずにそのまま「削除」だが、勧誘手口は段々巧妙になるようだ。
そもそも「楽をして結果を出したい」というのは殆どの人の心の底にある気持ちかもしれない。筆者自身もそうした気持ちが皆無かと言えば否定することは出来ないが、それでも「これはしっかりとやらないとまずい」という線引きのようなものが自然に出来上がってきている。生真面目な性格はこういう時には損かもしれない。
研究者の場合、学会で発表し、論文を書き、投稿し、査読を受け、それをクリアして学術誌に掲載してもらうというのが一般的な流れである。ところが、これ以外にも自分の見解や研究成果を発表する機会はいくつか存在する。例えば、人文・社会科学系では昔から著作を出版する、あるいは定評のある雑誌に投稿・寄稿することなども広い意味で研究成果を世に出すことと理解されている。もしかすると筆者などはこうした手法に馴染んだ最後の世代かもしれない。
さて、数日前に英国のある出版社からメールが来た。文科省の科学研究費のサイトを見て、筆者の研究内容を「紹介したい」というものだ。2~3か月に1度は同じサイトを見て、研究内容を投稿・出版しませんかという異なる出版社からの「お誘い」がある。掲載先はほとんどがインターネットの聞いたことのないオープン・ジャーナルである。
この時代、何か気になることがあれば誰でも直ぐに検索する。その結果、書いた論文が掲載されていればそれが証拠(エビデンス)となる。オープン・ジャーナルの全てが悪いとは言わないが、中には査読が無いもの、非常に緩いものや、高額の掲載料を取るものがあるため注意が必要だ。掲載したいという研究者の気持ちが逆手に取られている。ページ数に単価と論文数あるいは研究者数を掛けてみれば、この仕組みは「ビジネス・モデル」として、なるほどよく考えたものだと妙に感心してしまうが、はやりこれはいけない。「掲載されれば良いというものではない」と、どこまで本人が考えられるかが問われる。
こうしたことが続くと「質」の低下が起こる。どこどこへの掲載は簡単だがカネがかかる...というだけでなく、そこに掲載されているものの内容そのものにも疑義が生じるようになり、掲載誌とともに論文と投稿者への信頼性が失われることになる。
そこで次に彼らが考えたことは何か。論文そのものを査読(本来、これは同一あるいは近接分野で一定の力量がある研究者でないと出来ない)して質の良いものを出せない、あるいは出す能力が無いのであれば、研究の「紹介」という形であればどうか、ということだ。対象は研究だが、今回「お誘い」をかけてきた出版社(かどうかも本当はわからない)が、出してきた提案はそういうものだ。
例えば、筆者の研究の概要を先方が確認し、その内容を記事にして筆者の写真(多分、笑っているもの)と一緒にそれらしい形に整えた上、ウェブ上で公開してくれるようだ。
なかなか魅力的に思えるが、長い「お誘いメール」の途中にさり気なく書かれている極めて重要なポイントは、「書かれる記事にはページ料金が発生します」というものだ。これはいったいいくらになるのだろう。恐らく、一度、返信メールを出すと、「カモリスト」に登録され、世界中の同業者から半永久的に「お誘い」が届くことになる。小心者の筆者には怖くてとても確認する気にはなれない。それにしても、こうした営業努力を本来の分野に使えば、本当に社会のためになるのだろうに...と思わざるを得ない。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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