【近藤康男・TPPから見える風景】日米本格交渉、為替条項・非市場経済国条項をどう見るか?2020年1月30日
新NAFTA、米中第1段階合意の後、次は日米・米EUの“本格交渉”か?
メキシコに続き、米国も1月29日USMCA(新NAFTA)承認に大統領が署名した。1月15日には米中の「第1段階合意」に両国が署名し、トランプ氏は「第2段階」協議に意欲を示している。加えて今EUに対しても、追加関税の脅しを掛けて「本格交渉」開始を促している。
前回のコラムで、18年12月21日に米議会に送致された「対日交渉目的」22項目には、TPPに含まれていなかった"非市場経済国(中国を指す)とのFTA牽制"を含む「一般規定」と、「為替」が含まれていることを紹介した。
19年1月12日の「対EU交渉目的」も実質的に「対日」と同様の分野を網羅し、この2つの項目も含まれている。いずれもその文面は"日本"を"EU"に置き換えれば全く同じ、「日本が、効果的に国際収支を調整し(歪め)たり、あるいは不公平な競争上の有利性を得るために為替操作をしないよう確保する」、「日本が非市場経済国と自由貿易協定交渉に入る場合には、透明性を確保し、適切な対応をとるための仕組みを定める」というものだ。
「非市場経済国とのFTA」条項、これは認めるわけにはいかないだろう
日本も日中韓FTAを交渉中で、この3ヶ国はRCEPも交渉中だ。以下に記すような内容が義務付けられれば、協定交渉における手足を縛られているようなものだし、通商外交における主体性を放棄するに等しい。
日米貿易協定の構成も異常な条文を含んでいたが、新NAFTAの32章「例外及び一般規定」のセクションAに続くセクションB・第10条「非市場経済国との自由貿易協定」の内容は更に異常だ。
条文は7項から成っていて、
(1)「3ヶ国の内の1ヶ国が非市場経済国と認定した国と3ヶ国の内どの国もFTAを結んでいない場合に、ある締約国がFTA交渉を開始しようとする時には交渉開始3ヶ月前までに他の締約国に通知する義務」
(2)「要請あれば交渉目的を他の締約国に通知する義務」
(3)「非市場経済国との協定合意30日前迄に全ての合意文書を他の締約国の閲覧に供し、新NAFTAへの影響を再検討・評価の機会を与える義務」
(4)「締約国が非市場経済国と協定を締結した場合は、新NAFTAを残る2国の協定に置き換えることを認める義務」などが規定されている。(⑤~⑦省略)
日本政府はどう対応するのだろうか?日中韓FTAとRCEPは既に交渉中だが、日米間ではどうなるだろうか?米中の第2段階の交渉における展開次第で、米国は、多分日米の「本格交渉」における「投資」や「規制に関する優れた慣行」などにおいて、日本の対中投資・協力などについての立ち位置を睨み、新NAFTAの意図を何らかの形で反映する可能性は考えられないだろうか?
では、「為替条項」はどうなっているのだろうか?
新NAFTAでは、第33章が「マクロ経済政策と為替レートに関する事項」について規定している。その中で4~8条において「為替レートに関して具体的に規定されている。
主要な内容は、TPPの大筋合意が決着した翌月15年11月6日付の「TPP参加国のマクロ経済政策当局間の共同宣言」をほぼ踏襲したもので、IMF協定に準じた、市場実勢に即した為替レート維持、為替介入の回避、国際収支・為替介入・外貨準備などのデータの公表や締約国への通報、為替に関する事項を監視・検討する「マクロ経済委員会」の設置、などが規定されている。
また、第33章第8条で「紛争解決」が規定されているが、第31章「紛争解決」に基づく提訴や制裁は限定的な内容でしかない。
そもそも為替介入は、実際には、取引金額が大きくかつ流動性の高い通貨(ドル、ユ-ロ、ポンドなど)の場合、介入で市場実勢を歪めることは不可能で、為替条項の実効性も疑われるところだ。また、金利の影響も、中長期的には購買力平価に規定される為替レートに収斂するのが実態で、一時的なものでしかない。
ただ、為替条項は米国の自動車業界・労組の一致、かつ一貫した強い要求であり、掟破りのならず者たるトランプ氏は、協定と関係なく、ディールのため脅迫的言動を躊躇わないだろうし、歪みっぱなしの日本の金融政策への政治的牽制も強まるかもしれない。
米国大統領選を11月に控え、日米、米EUの「本格交渉」、トランプ流の揺さぶりの震度は高くなるだろう。
(参考サイト)
米通商代表部(USTR)
https://ustr.gov/
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