【熊野孝文・米マーケット情報】日本で清酒造りを始めるアメリカの稲作農家2020年2月11日
コメのことを取材している記者としては、少しは日本酒のことも知っておいた方が良いと思い、自身で購入した清酒の銘柄、蔵元、容量、使用品種、精米歩合、購入先、価格をエクセル上で作るようになった。あっという間に100本を超すようになったのでさすがに呑み過ぎだと思ったので最近は少し控えている。
それで分かったことはコンビニでも地酒が置いてあることで、しかも酒店で購入する価格と変わらないといったことやあまり知られていない醸造用好適米を使っている清酒の中には大変美味な酒があるということなどである。蔵元にもたまに取材に出かけることがあるが、忘れられないのは、創業が鎌倉時代という最も古い蔵元に伺った際に、社長直々にお燗にしても温度帯によって20種もの呼び名があるといったことや、自身が納得できる清酒を作るべく山田錦の親に当たる渡り船を自社で栽培していることなど、そのこだわりと清酒の奥深さを教えてもらい、酒質の異なる10種類もの酒を試飲してほろ酔い気分になってしまったことである。
この蔵元を取材したくなった理由は、ロンドンで開催されたワインコンテストでSAKE部門のコンテストが行われるようになり、それにエントリーして金賞を受賞、その清酒がオークションにかけられ、720ml1本が200万円で落札されたと聞いたからである。社長に「そのお酒は日本で売られていますか?」と聞くと新宿の有名百貨店を教えてもらったので行ってみると確かに置いてあった。値札を見ると最初は桁を間違えているのかと思ったが何度確認しても1600000円と記されていた。
海外での日本食ブームに伴い日本酒の輸出が好調で、先週、日本酒造組合中央会が「日本酒×海外トレンド」というメディア向け発表会を開催した。
清酒の金額ベースの輸出は2009年が71億8400万円だったが、年々伸び続け2018年に200億円を突破、222億3200万円になり、昨年は234億1200万円になった。輸出先国で最も多いのがアメリカで65億5700万円だが、伸び率が最も高いのは中国で、前年比139.4%の伸びで50億円を超えた。中国向けはこの10年間で21倍になっている。中国人は帰りの空港でもお土産に日本酒を買うとのことで、その際重視する項目は酒蔵の歴史だという。古いほど価値があるということなのだろう。
また、これまで日本酒とは馴染みのなかったフランス、イタリア、ドイツ、タイ向けも輸出量が増えており、その要因の一つとして現地のソムリエに、料理に合う酒として日本酒にはワインとは違った良さがあることが認識され始めことがあり、現地のソムリエ協会から日本酒についてのセミナー開催の依頼も来るようになった。
海外展示会の出展計画ではドイツで開催されるVinexpoや上海の見本市にも出展することやイギリス、フランス、香港、アメリカに海外サポートデスクを設置、現地での日本酒事情やトレンドを常時キャッチできるようにする。さらに国内でも訪日外国人が日本でよりディープな体験をしたいとのニーズが高まり、酒蔵視察が人気になっているため酒造中央会ではこうした訪日外国人のインバウンド需要を盛り上げるために通訳400名を対象に日本酒に関する基礎講座まで開催するようになっている。
さらに訪日外国人の日本酒消費を促進するため外国人を積極的に店に誘致、案内するためのツールを開発、接客やメニューなどの英語化をサポートするためのセミナーまで開催することにしている。また、港区虎ノ門にある日本の酒情報館は700種の日本酒が試飲できるとあってここを訪れる外国人も欧米人中心に増え、開店時に比べ3.5倍に増えたという。今年はオリンピックイヤーで訪日外国人が増えることが見込まれることから酒造中央会では虎ノ門ビルの3階フロアーを使った日本酒のイベントを6月から開催すべくイベント計画を練っている。
訪日外国人の中には日本酒に惚れ込んで杜氏になる人や酒蔵の経営者になる人まで現れた。極めつけは訪日した際、日本各地を回り、行く先々で日本酒を堪能、自分で日本酒を作りたくなったアメリカの稲作生産者がいることで、なんとアメリカの自社農場で生産したコメを日本に持ち込んで清酒造りを始めたのである。関税1kg341円を払えばそれが可能で、出来た清酒はアメリカで販売することにしている。それだけ日本で造る日本酒に価値があることに気付いたアメリカ人が国内で低迷する日本酒の救世主になるかもしれないので、酒造中央会にはこのアメリカ人を主人公にしたドキュメンタリー映画を作成してもらいたいものである。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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