【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(171)豚肉輸出は米国の一人勝ち?(続)2020年3月6日
先週は中国の豚肉輸入動向について、今後10年間の長期見通しを述べたが、今週は直近の動向を見てみたい。筆者も見落としていたが、米国農務省は2020年から食肉の見通しを、従来の年2回から4回(1・4・7・10の各月)に増加することになった。これは大変有難い。1月と7月の公表には含まれない国もあるが、全体動向を見るには十分である。
そこで早速、昨年10月から今年1月の間で豚肉をめぐる状況を米国農務省はどう見ていたかをまとめてみる。
中国の豚肉生産量と需要量を時系列で並べると以下のとおりとなる。単位はいずれも「万トン」である。
ざっと見てわかることは、昨年10月時点からは多少持ち直してはいるものの、ASFの発生前の2017年時点と比較すると、生産量で▲1852万トン(▲34%)、需要量でも▲1633万トン(▲39%)の大幅減ということがわかる。この差を埋めるのが輸入量の増加であり、同時期に208万トン増加している。
輸出の国別詳細は不明だが、この間、EUの豚肉輸出数量は286万トンから390万トンへと104万トン増加し、米国は256万トンから322万トンへと66万トン増加している。また、ブラジルが79万トンから100万トンへと21万トン増加している。
まとめると、今回のASFは、現在までに中国の豚肉生産・需要の双方に対し大きな影響を与えた(ピーク時から▲34~39%)が、そのギャップである200万トン、つまり急なニーズを輸出という形で埋めたのは、EU、米国、ブラジルの3者が合計191万トンで、残りの若干を他国が補ったと考えることができる。
また、カナダの輸出は同時期に22万トンから26万トンへと4万トン増加している。中国に出すよりは陸続きの米国に出した方が容易だが、カナダの豚肉生産量は年間約200万トンで、国内需要は約90万トンである。年間の輸出数量は約130万トンと、輸出志向型の豚肉生産を行っている。数万トンの中国向け輸出増加には簡単に対応可能であろう。
さらに興味深いのは、香港である。同時期の香港は生産量が13万トンから5万トンへと▲8万トン、需要量は60万トンから35万トンへと▲25万トン、この間、輸入数量は46万トンから30万トンへと▲16万トンとなっている。数字だけを見れば、香港は香港としてしっかりとバランスが取れている。
ポイントは、もともと香港の数字は大陸と合わせて考えないと実態を見間違うことになることは業界では良く知られていた。だが、そのつながり具合については部外者にはなかなかわからなかった。その視点でこれらの数字を見れば、この大変な時期に香港の輸入数量が大きく減少し、中国の輸入数量が逆に大きく増加したことは、大陸の深刻度が相当であったことを示唆している。
つまり、一旦、香港に輸入して、その後に大陸に再輸出というような手間を取る余裕など全く無かったということであろうし、そのような仕事を通じて流通していた豚肉の数量がどのくらいであるかを暗に示していると考えることができる。
最後に、メキシコについて一言触れておきたい。メキシコの豚肉生産量は年間約150万トン、輸出は約25万トンだが、基本は輸入を120万トン程度実施しており、250万トンの国内需要のほぼ半分を輸入に依存している。メキシコは巨大な需要を持つ米国と陸続きという利点はあるが、それでも豚肉輸出は2017年の17万トンから2020年には25万トンに伸びている。
周知のとおり、日本の豚肉需要は年間280万トンで、国産が130万トンとすれば、大枠で見た場合にはメキシコのバランス状態に近い。残念ながら、日本の同時期の豚肉の輸出数量は米国農務省データでは年間5000トン(これは四捨五入した数字であり、日本の貿易統計によれば豚くず肉を含めて3000トン程度)で余り変わらない。
わが国は、米国やEUのように遥か彼方ではなく世界最大の豚肉マーケットが隣にあるのだから、そのほんの一部、せめて5万トン程度(5000万トンの0.1%)でも日本の豚肉で獲得できないものかといつも思う。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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