【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(173)「入境問禁」と「違法性の認識」2020年3月20日
ヒト・モノ・カネ・情報の域内における自由な行き来を最大のメリットとして掲げて成立したEUが続々と国境を封鎖している状況を見ると、広域の安全性確保というものは本当に難しいと思う。
いつもの四字熟語で恐縮だが、「入境問禁(にゅうきょうもんきん)」という言葉がある。知らない土地や初めての土地に行ったら、最初にそこでの禁止事項を必ず問うこと、である。よく使うことわざでは「郷に入れば郷に従え」、少しマニアックな方なら、同じ四字熟語で「殊俗帰風(しゅぞくきふう)」という言葉を思い出すかもしれない。いずれも大きな意味としては同じである。
グローバル化により各地のローカルな習慣・習俗などが同じようになると、自国でのルールがそのままどこでも通用すると思う人が多いが、実は世界の各地ではそれぞれの歴史と経験に基づき、色々な習慣やタブーが定められている。部外者にはこれがわからないため、そこから様々な問題が生じる。
昔の人の教えは、だからこそ、「郷に入れば郷に従え」であるし、それよりもまず疑問を持ち、ここでは何が禁止されているのかを問うことから始めよというのが、中国の古典『礼記』の中にある「入境問禁」という言葉である。
さて、他紙で恐縮だが、本日の日本農業新聞の一面には、「アフリカ豚熱進入の恐れ 豚肉持込年17万人、本誌、東大、宮崎大共同調査で推計」というかなり重要な記事が掲載されていた。
なかでも筆者の関心を引いたのは、豚肉製品持込に対し、「違法性を認識している」が訪日中国人248名中44%、「違法性を一応認識している」が41.1%で、調査対象の8割以上が、日本への豚肉製品の持ち込みは違法性があると認識していたことだ。
率直なところ、「よく知らない」12.1%、「認識していない」2.8%、はともかくとして、知っていながら堂々と持ち込むことに対し、同紙が主張している水際対策強化はもちろんだが、さらに具体的に効果がある措置を検討すべきではないだろうか。
わが国の刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」とあるが、そのすぐ後に「ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りではない」と定められている。さらに、同じ38条3項は、「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を軽減することができる」と定められている。これは漢字カタカナ混じりの旧刑法の時も77条4項で、「法律規則ヲシラサルヲ以テ犯スノ意ナシト為スコトヲ得ス」と定められていたように一貫したルールである。
「知らなかった」とした場合でもこれはまずいよと定められているところに、明確あるいは一応の差はあれど、「違法性を認識している」のが8割を超えているとしたら、もう情状の余地は無いはずだ。
実際、2019年4月以降、こうした事情を考慮し、海外からの肉製品の違法な持ち込みへの対応が厳格化されている。そして、家畜伝染病予防法は、これに違反した場合、法第63条で「三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」と定めている。
先の日本農業新聞によれば調査が実施されたのは昨年8月である。その段階で8割以上が違法性を認識していたとなれば、4月からの厳格化が十分に周知された上で、それでも意識して...ということになる。これは施策と具体的対応のどこがまずいのかを徹底的に調べ早急に改善してほしい。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
令和7年秋の叙勲 西沢耕一元JA石川県中央会会長ら93人が受章(農協関係)2025年11月3日 -
シンとんぼ(166)食料・農業・農村基本計画(8)農業の技術進歩が鈍化2025年11月1日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(83)テトラゾリルオキシム【防除学習帖】第322回2025年11月1日 -
農薬の正しい使い方(56)細菌病の防除タイミング【今さら聞けない営農情報】第322回2025年11月1日 -
酪農危機の打破に挑む 酪農家存続なくして酪農協なし 【広島県酪農協レポート・1】2025年10月31日 -
国産飼料でコスト削減 TMRと耕畜連携で 【広島県酪農協レポート・2】2025年10月31日 -
【北海道酪肉近大詰め】440万トンも基盤維持に課題、道東で相次ぐ工場増設2025年10月31日 -
米の1等比率は77.0% 9月30日現在2025年10月31日 -
2025肥料年度春肥 高度化成は4.3%値上げ2025年10月31日 -
クマ対策で機動隊派遣 自治体への財政支援など政府に申し入れ 自民PT2025年10月31日 -
(459)断食:修行から管理とビジネスへ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月31日 -
石川佳純が国産食材使用の手作り弁当を披露 ランチ会で全農職員と交流2025年10月31日 -
秋の果実王 旬の柿を堪能 福岡県産「太秋・富有柿フェア」開催 JA全農2025年10月31日 -
「和歌山県産みかんフェア」全農直営飲食店舗で開催 JA全農2025年10月31日 -
カゴメ、旭化成とコラボ「秋はスープで野菜をとろう!Xキャンペーン」実施 JA全農2025年10月31日 -
食べて知って東北応援「東北六県絆米セット」プレゼント JAタウン2025年10月31日 -
11月28、29日に農機フェアを開催 実演・特価品販売コーナーを新設 JAグループ岡山2025年10月31日 -
組合員・利用者に安心と満足の提供を 共済事務インストラクター全国交流集会を開催 JA共済連2025年10月31日 -
JA全農と共同開発 オリジナル製菓・製パン用米粉「笑みたわわ」新発売 富澤商店2025年10月31日 -
【スマート農業の風】(20)GAP管理や農家の出荷管理も絡めて活用2025年10月31日


































