【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(174)見えないところで支える人達2020年3月27日
新型コロナの影響で国内外ともに大変な状況が継続している。これまでのところ日本は何とかこの難局に対応してきたようだ。続々と非常事態宣言や国境閉鎖が実施され、国内でも移動や外出禁止が徹底される欧米諸国とはとりあえずは対照的かもしれない。
我々が直面している現実は、ヒト・モノ・カネ・情報が広範に行き来する現代社会では、感染症の原因となるウイルスも自由に行き来するというものだ。
疾病の専門家ではない筆者が病気やその対応について記すことは出来ないが、忘れがちな視点をいくつか記しておきたい。実際、筆者の職場である大学ひとつを例にしても数多くの課題が急激に浮上してきている。
第1に、人生の一大イベントでもある卒業式や入学式(企業では入社式)、そして授業や研修をどのように実施するか、というオペレーション上の問題である。毎年、当然のように行われていたが故に、何の疑いも持たなかった日常が、当事者とは無関係の事象により急遽中止されるという事態は多くの人にとって初めての経験である。その意味では、全国一斉休校もそうだ。ヒトは今まであったものを喪失して初めて、その価値や意味、そして、ここが重要だが「運営の方法」を再認識するのかもしれない。
第2に、学校関係で言えば、日本の新学期は4月からであり、これから始まる。大学の場合、春休みで全国に散っていた学生達が一斉にキャンパスに戻る。各種報道によれば、今回の新型コロナ感染症は、「無症状感染者」が若年者に多いようだ。そうなると、これにどう対応するのか。高齢者に片足を突っ込んでいる筆者も含め、多くの教育現場では目の前の現実、つまり「授業の遂行」に集中せざるを得ないことが予想される。もちろん、遠隔授業も選択肢の1つだ。さて、どうしたものか。教員だけが感染しない事などあり得ない。お互いに感染リスクを抱えたまま新年度をスタートするのは、実のところ花粉症以上にアタマが重い。
第3に、今回のケースで意外に忘れがちな点は、海外にいる日本人、とくに留学生や企業の海外駐在員、そして大使館・領事館等の在外公館で勤務している人達である。世界中の青年海外協力隊とシニア海外協力隊については、先日、全員帰国の方針が出されたようだ。率直なところ全世界で1800人もいたのかと少々驚いている。
一方、海外留学生は、即時帰国から状況を見つつ継続滞在までそれぞれの立場により対応が異なるようだ。企業の駐在員は余りにも多岐にわたるため一括しにくいが、誤解を恐れずに言えば、現地に永住に近い人を除けば基幹社員を残して後は帰国...、ということになるのかもしれない。最後に残るのが在外公館のスタッフだ。これは大変である。
現地の状況が変化した際、留学生や駐在員はそれでも比較的動きが取りやすい。だが、諸外国での邦人保護を主たる任務とする在外公館のスタッフは、万が一現地を去るとしても本当に最後の最後になるのであろう。Wikipedia情報だが、2020年1月時点で、日本の在外公館数は227(大使館152、総領事館65、政府代表部10)、そしてこの他に4つの兼勤務駐在官事務所があるという。計算を容易にするため1つのオフィスに仮に10人としても2000人を超える。実際にはこれより遥かに多いであろうが、外務省の職員数は全体でも6000人強である。半分が海外にいたとしてもたかが知れている。
今回のような状況になると恐らく業務は非常に慌ただしくなり、現場では現地採用のローカルスタッフを含め過重労働が続いているのではないかと思う。まずは、彼ら、とくに現場の第一線で日々業務をしているスタッフの健康と無事を切に祈りたい。
なお、外務省資料によれば、2017年時点で海外にいる日本人、つまり在留邦人総数は約135万人と伝えられている。内訳は、北米が約50万人、アジアが約39万人、西欧が約22万人である。ここまでで約111万人と全体の8割強を占める。在留邦人135万人が一斉に帰国するようなことはまずあり得ないであろうが、どの程度が短期的な帰国対象になるのだろうか。これは医療限界とは別のロジスティックスの問題である。
このようなことを考えていたところ、ノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授が新型コロナウイルスに関する情報サイトを開設したとの報に接した。内容は極めて分かりやすいので、一度、是非見ることをお勧めする。(https://www.covid19-yamanaka.com)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
【インタビュー】農業の未来 技術力で拓く シンジェンタジャパン 小林久哉社長インタビュー(2)2024年5月13日
-
適正な価格形成 法制化速やかに JAグループの政策提案2024年5月13日
-
全農パールライス 全農栃木県本部パールライス事業と統合2024年5月13日
-
【注意報】果樹全般にカメムシ類 県内全域で多発のおそれ 愛知県2024年5月13日
-
【注意報】モモ、ナシに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岡山県2024年5月13日
-
王貞治氏が3年ぶりに熱血指導「JA全農WCBF少年野球教室」東京で開催2024年5月13日
-
サッカーJ2ロアッソ熊本に大玉スイカを寄贈 JA菊池2024年5月13日
-
向こうの方に戦争という亡霊が【原田 康・目明き千人】2024年5月13日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」農福連携テーマに食と農のニュースをお届け JAタウン2024年5月13日
-
小さな生産者、キュウリ栽培が今年もスタート JA晴れの国岡山2024年5月13日
-
最新農業用ドローン「DJI AGRAS T50」無料セミナー 春日部市で開催 セキド2024年5月13日
-
JR大阪駅みのりみのるマルシェ「長崎の実り」18日に開催 JA全農2024年5月13日
-
5月は自転車月間「自転車の利用実態と安全運転に関する意識調査」実施 共栄火災2024年5月13日
-
日本たまごかけごはん研究所コラボ第3弾「東北のうまいもん」厳選ブランド卵を予約開始 食文化2024年5月13日
-
家畜ふん尿由来「バイオメタン」商用利用を開始 エア・ウォーター2024年5月13日
-
杏仁粉配合で本格的な味わい「マンゴー杏仁ミルク」新発売 北海道乳業2024年5月13日
-
「水田メタン」発生抑制と環境配慮米の普及へ Green Carbonと連携協定締結 兼松2024年5月13日
-
売上高4.5%減 経常利益は80.5%減 2024年3月期決算 デンカ2024年5月13日
-
農林水産業みらいプロジェクト 2024年度助成事業募集受付 みらい基金2024年5月13日
-
鳥インフル 米ノースカロライナ州からの生きた家きん、家きん肉等の一時輸入停止措置を解除 農水省2024年5月13日