【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(177)中国の豚肉需給から「コロナ後」を考える2020年4月17日
中国の豚肉生産量は、3年前(2017年)の5452万トンから2000万トン減少し、2020年は3400万トンになりそうだ。一桁違うが、豚肉輸入は同時期に150万トンから385万トンに増加見込みである。
これらは2020年4月9日に米国農務省が公表した見通しである。中国は世界最大の豚肉の生産・消費国である。2016/17/18の各年にはいずれも年間5,400万トン以上の豚肉を生産していた(3年間の単純平均5427万トン)。直近の生産量ピークをこの3年間と見れば平均約5400万トンであり、今回の発表でピーク時からの2000万トンの減少が明確になった訳だ。世界の豚肉貿易量2年分以上の数字である。
これは言うまでもなくアフリカ豚コレラ(ASF:African Swine Fever)の影響だ。新型コロナウイルス感染症の影響については現時点ではまだ詳細は判明していないが、世界の豚肉生産量は中国の減産により2019年まで数年間維持していた年間1億トン水準を割り込み、2020年には9433万トンにまで落ち込む見込みである。
今年1月時点での米国農務省の見込み数字は9638万トン、3か月で205万トンの減少である。この傾向がそのまま続くかどうかは微妙だが、回復を期待させるような明るいニュースは今のところほとんど見当たらない。
一方、当初は中国、ベトナム、フィリピンといったアジア諸国がASFに苦しむ中で、米国は一人勝ちのような状況に見えた。実際、昨年との比較で言えば、米国以外の生産国が8943万トンから8115万トン(▲828万トン)へと大きく生産量を落としているのに対し、米国は1254万トンから1318万トン(+64万トン)へとわずかだが数字を伸ばしている。新型コロナウイルス感染症による米国国内の影響がなければ、米国産豚肉は中国市場を席捲したかもしれないが、事はそう単純ではなかったということだ。
この感染症については連日、EUにおける多大な被害が報道されているが、豚肉生産をEU全体として見ると、昨年の2394万トンから2415万トンと概ね同水準を維持している。このあたりはさすがにEUらしく興味深い。
なお、過去数年の中国の豚肉生産量と輸入量を示したものが下記である。赤い部分は各々今年の1月および4月時点の数字である。縦軸の単位が生産量と輸入量では一桁違うことにご注意頂きたい。
出典:いずれも米国農務省公表資料より作成。
さて、ここから先は率直なところいつになるかわからない「コロナ後」を踏まえた上で少し考えをめぐらしてみたい。簡単な計算をしてみよう。
中国と日本の人口を各々14億人、1.2億人とし、年間豚肉需要量を5500万トン、280万トンとした場合、1人当たりの年間消費量は中国が3.9kg、日本は2.3kgとなる。また、冒頭で述べた2000万トンの減少を14億人で割れば1人当たり1.4kgである。
極めて粗い計算だが、今回の豚肉減産は、中国人に日本人と同じ量の豚肉消費を全国ベースで求めていることに近い(3.9kg-1.4kg=2.5kg)。豚肉生産が2000万トン無くなるとはそういうことだ。この計算は、あくまでも14億人を均一なものとしての概算だが、個人ベースで考えれば、国民全体が豚肉消費をこれまでの3分の2にしないと回らないと理解すればよい。食欲を押さえることが出来なければ、旺盛な需要が少ない供給に集中して価格が高騰する。それが中国全土で試されている訳だ。だからこそ消費者物価指数(CPI)が消費者ポーク指数などと揶揄されることになる。
現在のところ、中国当局の目標は2020年末までに通常の供給量の8割程度までに回復させることを意図しているようだ。平時の6割にまで落ちた供給を今年中に+2割、できれば来年中に平常レベルに戻す、それまでは何とか鶏肉や鶏卵など他の食材で凌がざるを得ないというのが実情であろう。輸入で対処できる量などたかが知れているからだ。
さて、4月14日に「Science」誌に掲載された米国の研究によれば、新型コロナウイルス感染症の影響は2022年頃まで継続する可能性が高いという。中国の場合、武漢の閉鎖解除までに77日、同市の総人口からすればわずかだが、閉鎖解除当日だけでも5~6万人が武漢を脱出したという。今回の感染症の怖さは無症状感染者が意識しない間に感染を拡大することであり、こうした無症状感染者は、都市生活だけでなく畜産生産の現場においても様々な影響を及ぼすことになる。したがって、短期の完全解決はなかなか厳しいと見ておく方が無難であろう。そうなると、当面、国際貿易市場では豚肉輸入における中国の存在は益々大きなものになると見て、これも間違いないであろう。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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