コロナ禍が教える地方と政治のありよう【小松泰信・地方の眼力】2020年6月3日
相談者(東京都・38);コロナウイルスからどうやって子どもを守れば・・・。
美輪明宏氏;世界じゅうが同じ問題で頭を抱えている今の状況は、この地球上であまりないことですから、少しぐらいの我慢は当たり前と言わざるをえません。(省略)いま体験していることは、「地球規模で考える」ということを子どもに教える機会だと思います。あなたもよく勉強していっしょに考えることで、よい影響を与えることになるでしょう。(美輪明宏の人生相談、「家の光」7月号)
◆土台であり希望の場としての農業・農村
農業・農村の視点から考えるヒントを与えているのが、「地上」7月号に寄せられた二人の論考。
山下惣一氏(農民作家)は、まずコロナ禍が教えてくれた最大のものとして、「田舎暮らしの安全安心であり、食を自給して生きることの盤石の強さ」をあげる。それを支える最適の手法として、家族農業における「一見、非効率、不合理のようだが、小規模複合経営」を位置付ける。「それでは成長も発展もない」という意見に対しては、「それでよい」とする。なぜなら、「これは暮らしの土台であって、その土台の上に経済活動は乗っかっているのだ。土台ごと経済活動にしてしまうと、万一の場合土台から崩れてしまう。農業分野ではそんなリスクの高い冒険はしない」と喝破。故にか、「国民の63%が外国からの輸入食料で生きている」状態を最大の心配事とする。
祖田修氏(京都大学名誉教授)は、「今日の新型コロナ禍は『三密』(密閉、密集、密接)に警告を発しているが、それは大都市集中への警告でもある」が、「現代に生きるわたしたちは、都市的なものなしに、生きることはできない。都市と農村の結合、それもドイツ、続いてEU(欧州連合)がめざしている中小都市と農村の結合において、人間らしい暮らしが成り立つといえよう。その視野の中に、農業と農村、そこでの働き方、暮らし方、生き方が大きく浮かび上がってきている」ことを指摘する。
そして「農業・農村は、人々に新たな豊かさを約束する未来産業・未来地域、希望の場として見直されるであろう」と展望する。
◆地方の胎動への期待
土台であり希望の場としての農業・農村を主要な構成要素とする地方の進むべき方向について、三地方紙の社説が展開している。
秋田魁新報(5月31日付)は、「コロナ禍を教訓として、東京一極集中の是正に本格的に取り組みたい」とする。「ぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られて出勤することが、いかに大きなリスクとストレスを伴っていたか再認識させられた人も多かったのではないか」と問いかけ、「テレワークを試みた結果、(省略)拠点を地方にシフトする企業が増えていく展開もあり得る。国や自治体はそうした動きを積極的に後押しするべきだ」と提言する。
そして「何よりも重要なのは大都市と地方の均衡ある発展」のために、「いま一度、知恵を結集したい」とする。
高知新聞(6月1日付)は、「高知県内に移住した人の数が2019年度、1030組(1475人)になり、初めて年間千組を超えた」ことを取り上げ、「人口減少に悩む高知県にとって、意味のある『千組突破』」とする。しかし「移住とは人生の決断」であり、移住相談は「いわば人生相談」であるため、「心」の部分が移住促進策の根幹とする。このことから、移住を「定住」にするために、これからはアフターケアの充実とともに、移住地を離れた人たちを対象に、その理由なども幅広く調査し、検証することを提案している。
そして、コロナ禍が東日本大震災の時と同様に、人々が生き方を見つめ直す契機となり、地方への移住熱が再び高まることを想定し、「先手を打つような県などの移住促進策」を求めている。
河北新報(5月31日付)は、岩手県北の自治体(久慈、二戸、葛巻、普代、軽米、野田、九戸、洋野、一戸の9市町村)が、「北岩手循環共生圏」(環境省が全国で提唱する地域循環共生圏の一つ)の構築に取り組んでいることを取り上げている。
まず「高度成長期以降の大量生産、大量消費は地球の温暖化や環境破壊、資源枯渇をもたらした。地域経済の視点から見ると、穴の開いたバケツで水をくむように所得を地域外に漏らし、地域をやせ細らすという結果を招いた」と分析し、「自然豊かな北岩手が率先して、再エネを基軸に経済を捉え直そうとしているのは当然」とする。これらの取り組みを契機に、「資本や人の東京一極集中を緩やかに逆回転させ、地域に戻していくような流れをつくりたい」と期待を寄せている。
そして、新型コロナウイルスの影響で苦境に陥った飲食店や企業を地元住民が支えようとする動きが広がっていることから、「地域の力をつなぎ合わせながら、足元から経済の在り方を見つめ直す時期が来ている」としている。
◆ムヒカ氏の教え
毎日新聞(6月3日付)は、「世界一貧しい大統領」と称されたウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領のメッセージを紹介している。
氏は諭すように、「今は、『家族や友人と愛情を育む時間はあるのか?』『人生が強制や義務的なことだけに費やされていないか?』と自問自答を重ねる時だ。私は、人類が今の悲劇的現状から何かを学び取ることができると考えている。それが実現すればコロナ禍は人類にとって大きな糧になるだろう」と語る。
2016年に初訪日し、「ウルグアイの人口とほぼ同じ300万人もの人が毎日、ある駅を利用していた」ことに大きな衝撃を受けたことから、「日本人も都市開発について立ち止まって考え直す時期に来ているのではないか。これから生まれてくる人のため、少しだけ社会を大切にする気持ちを持ってほしい。世界には支援が必要な社会的弱者がいることも忘れないでほしい」と、核心を突く指摘。
さらに、環境破壊や天然資源の無駄遣いにより地球という「我々の家」が損なわれ、人類が生存を脅かされているという危機感から、大統領時代に環境・エネルギー政策に力を入れたことを紹介し、「各国独自の取り組みだけでなく、人類や地球を守る大きな観点から、過剰な都市開発を規制し、環境保護を進める有効な国際的枠組み作りが求められる」とも語る。
最後に、「人類は過去の世界的危機のたびに新しいものを生みだした。コロナ禍後の『新たな世界』で新たな視点から、(都市開発重視からの転換など)新たな価値観を発見する若者が出てくるのを期待している」と、若者に珠玉の言葉を贈っている。
◆これが本物の政治家の言葉だ
ムヒカ氏の人生がにじみ出てくる言葉の数々。安倍首相を頭とする、恥ずべき空前絶後にして抱腹絶倒政権には望むべくもない、本物の政治家の慧眼(けいがん)に感動する。
まずはまっとうな政治家を選び、まっとうな政治を取り戻すのみ。
「地方の眼力」なめんなよ。
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