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日米本格交渉の行方を占う【近藤康男・TPPから見える風景】2020年6月11日

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【近藤康男「TPPに反対する人々の運動」世話人】

19年9月25日の日米共同声明第2項で、日米貿易協定に関連して、発効後4ヶ月以内に本格交渉における交渉分野についての協議を終えるとしている。
しかし、両国とも新型コロナウィルスの感染症対策に追われる中で期限の4月を過ぎても何の情報も公表されていない。

◆大統領再選最優先のトランプ大統領対政権維持の安倍首相

11月大統領選に向けてトランプ氏が必要とするのは、支持基盤である農業州や製造業地帯にアピール出来る成果と、強いリ-ダ-像を印象付ける争点づくりだ。既に合意済みのものでは日米貿易協定・デジタル貿易協定と対中国との貿易拡大「第1段階合意」、そして7月1日に発効する新NAFTAがある。日米・米中の貿易合意については、いくつか重要課題を先送りしているが、2月の大統領経済報告や通商政策に関する年次報告書では今後の課題を挙げつつも、日米合意の成果を最大限誇らしげにうたっている。対中国についても、コロナや香港版国家安全法以降強硬姿勢が目立つものの、トランプ氏は5月21日に「第1段階合意」を評価し、USTRと米農務省は同日に共同で米中の合意と協力をうたった声明を出している。
一方、これまで誇ってきた経済は、"コロナ"の影響をまともに受けているし、コロナという危機をリーダ-シップ発揮の機会にすることにも失敗している。得意の対中強硬姿勢も、民主党を含めて米国全体が同じ方向を見ているため、直接トランプ氏支持の拡大にはなり難い。
日本の側も、コロナ対策・黒川検事長問題で自らの支持率30%割れ(5月下旬朝日・毎日)を経験した首相は、政権維持そのものが命綱という状況にあり、日米本格交渉に前のめりになって波風を起こすだけの余裕は無いのではないか?

 
◆米国ではどんな議論がされているのだろうか?

日本で聞かれるのは、3月3日参院予算委での茂木外相答弁を受け、複数回の協議が行われたとの報道や4月22日付日本農業新聞の新型感染症の深刻化や大統領選の影響で予備協議の不透明さを強調する記事くらいだ。
米国からもあまり情報は流れてこないが、どうも急いでいる節は窺われない。4月6日付の米紙Inside Us Tradeによれば同紙のインタビューに対し、前USTRアジア太平洋担当次席代表ハーシュ氏は、深刻なパンデミックの影響、始まるかどうかより如何に前進させるかが重要、他に重要な通商上の課題がある、USTRに交渉開始時期についてコメントを求めたが言及は無かった、としている。同紙はまた5月13日付で、USTRライトハイザ―代表と茂木外相が電話会談で、WTOの紛争解決システムの恒久的な改革の必要性で一致したが、日米交渉の現状についての本紙の問いに対しての言及はなかった、と報じている。

 
◆大統領選前、日米交渉の優先度は果たして高いのだろうか?

日米本格交渉は、米国にすればいつでも交渉開始が可能だし、"アメリカ・ファースト"ならぬ"自分ファースト"のトランプ氏にとっては、再選後でもいいし、大統領選の形勢が思わしくなければ、新たな成果を求めている他の重要課題に比べて優先度は当然低くなるだろう。
トランプ氏は5月29日、香港の国家安全法問題で中国への措置を発表したものの貿易に関する「第1段階合意」についての言及は無かったし、中国政府の米農畜産物の輸入"一時"停止報道(6月1日米ブル-ムバーグ通信)もある種の牽制に近いニュアンスだ。
大統領選に向けては、決着の有無にかかわらず、5月5日から始まり、以降6週間間隔でテレビ会議方式での交渉をすることが決まった、英国とのFTA交渉の方が優先度が高いのではないだろうか? また、最初から農産物で止まったままの対EU交渉の糸口でもつけられれば新たな成果になるだろう。米国はこの2者にも新NAFTAを踏まえた、「対日交渉目的概要」と同様の「交渉目的概要」をぶつけている。

 
◆しかし、気を緩めることも、TPPプラスを許すわけにもいかない

日本政府は、ル-ル分野は既にTPP11で国内法改正もしてしまったので、それほど拘らないかもしれない。しかし貿易赤字に拘るトランプ政権は、ル-ル分野においても、農畜産物の地理的表示への牽制、薬価への介入の姿勢、国有企業・国家貿易への介入の示唆、金融・電気通信を含むサ-ビス貿易における規制の緩和、政府調達市場の一層の開放など、輸出拡大につながるような内容に重点を置いている。発効済みの協定では除外されたコメもいつでも「特恵的待遇」を求め得ることも忘れるわけにはいかない。
更にTPPには無かった、非市場経済国(中国など)とのFTA交渉への制約や合意前の情報開示などを、新NAFTA同様に各国・地域への「交渉目的」に入れ込んでいる。
そして日本政府は日英EPAについては年内承認を目指しており、自動車と引き換えに農畜産物は、EPAを増やすたびに市場を提供する引き出物にされるだろう。農業や公共の疲弊、暮らしや地域の疲弊を止めなければならない。

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