バ・カ・チ・オ・ン!【小松泰信・地方の眼力】2020年7月29日
V・A・C・A・T・I・O・N 楽しいな!♪この歌でヴァケーションのスペルを覚えた人も少なくないだろう。1962年、各社競作で出された「ヴァケーション」を20万枚売り上げたのが弘田三枝子さん。当コラム9歳の頃だが、歌唱力とパンチの効いた歌声、はじけるような明るさを覚えている。その彼女が7月21日になくなっていた。それが伝えられたのは7月27日。
◆ワーケーションも利権の産物か
何の巡り合わせか、その27日に開かれた政府の観光戦略実行推進会議で、菅義偉官房長官は、ヴァケーション(休暇)とワーク(仕事)を組み合わせた造語「ワーケーション」の普及推進に取り組む考えを示した。要するに、旅先で休暇を愉しみながらテレワークすること。それが、「新しい旅行や働き方のスタイル」で、ホテルや旅館のWiーFi環境の整備を支援するとのこと。
批判続出の中で強行されている「GoToキャンペーン」とともに、この「ワーケーション」も新型コロナウイルスの影響で低迷する観光業界への支援策である。
「GoToキャンペーン」といえば、その強力な推進役二階俊博自民党幹事長は、業界団体の一つ「全国旅行業協会」の会長で、当該業界の「族議員」と目されていることを、東京新聞(7月28日付)が伝えている。また、「二階氏が代表を務める自民党和歌山県第三選挙区支部の政治資金収支報告書によると、全国旅館政治連盟と国観連政経懇話会、旅館ホテル政経懇話会が12年以降、計470万円を献金している」ことや、「安倍政権が進めるインバウンド(訪日外国人)政策の実質的な責任者が菅義偉官房長官」(鈴木哲夫氏、政治ジャーナリストのコメント)であることを紹介している。
結局、利権がらみのごり押し政策か。国民をコロナ感染の危険にさらしてまでも吸いたくなる甘い汁は、彼等の媚薬と言えよう。
◆ワーケーションはヴァケーションを破壊する
自らの体験に基づけば、平時においても、「ワーケーション」が広がることはない。それどころか、広げてはいけない愚策。
たとえば、このコラムの締切りが切迫した時に旅行が重なったとする。旅支度で欠かせないのがPC本体と関連機器。これらの重量はかなりのもの。さらに重いのは、仕事があるという精神的負担。純粋な旅行とは明らかに違う。
つぎに、宿泊場所などでのWiーFi環境。これはかなり整備されている。未整備の所でも、スマートフォンにオプションでテザリング(thethering)機能を付けたら、インターネットとの接続は可能となる。故に、「WiーFi環境の整備支援」の必要性は極めて低い。国立公園内での整備も検討しているようだが、カネのためなら何でもやる無粋な連中だね。
ここまではひとり旅の話。家族旅行でのワーケーションの場合、仕事オーラを出してちょくちょく電話をしたり、PCとにらめっこしてブツブツ言う異物がいて、心底楽しめるわけがない。トラブルでも発生したら、目も当てられない。ワークもヴァケーションも、すべてパァ。そんなこともイメージできない菅ちゃんも役人も、皆さんまとめて立派なパァ。
この際言わせてもらうが、純粋にヴァケーションを愉しもうとする人にとっても、ワーケーションでくる客は、艶消しの迷惑な存在。新幹線車中で、仕事してますモードでPCのキーボードを叩いている人を何回注意したことか。まして、カネと時間を捻出し、心身のリフレッシュのためにリゾート地などに滞在している者にとっては、目障り、耳障りな存在そのもの。
結論。ワーケーションはヴァケーションを破壊する迷惑な代物。国が鉦と太鼓で進める代物ではない。
ましてこの非常時。使えるカネとチエは、もっと違うところに注ぐべし。
◆ここもカネとチエの使いどころの一つ
西日本新聞(7月29日付)は1面で、「熊本豪雨農家に深手」という見出しで、熊本県南部を襲った豪雨が、農業に深刻な打撃を与えていることを報じている。27日現在、熊本県内の農作物、農業用施設、農地など農業関係の被害は345億円に上るとのこと。再建には費用も時間も必要で、苦悩する農家の声を紹介している。
-葉たばこ農家(55);5月以降に晴天が続き、今年は収量アップに期待していたのに...。1円にもならない泥まみれの葉を処理するのはつらい。
-水稲農家(59);今年は育ちが良く、良いコメができると期待していたんだが...。どうしようもない。
-水稲農家(82);もう潮時かな...。水がきれいでおいしいコメがとれる地域。負けずに泥かきから始めたい。
-かんきつ農家(56);あとは消毒を2、3回して12月の出荷を待つだけだったのに。台風は警戒していたが、土砂に巻き込まれるとは。先が見えないのがつらい。
コロナと豪雨、二重の災禍に襲われた人たちの復旧、再興にカネとチエを使うのが政治の、そして政治家の仕事のハズ。
◆国会はワーケーションのメッカか
ところが、毎日新聞(7月29日付)は、こともあろうか熊本選出の国会議員がその豪雨災害を議案として28日に開かれた衆院災害対策特別委員会の審議中に、いわゆる内職(英語のお勉強)をしていたことを報じている。
その議員とは、坂本哲志・元副総務相(自民、熊本3区)。氏は約3時間20分の審議のうち少なくとも2時間、内職にいそしんでいたとのこと。
もちろん、衆院規則は審議中に議事と無関係の本などを読むことを禁じている。まして己の地元県の災害について皆が審議しているさなかである。坂本氏は取材に「熊本と関係のない質疑になった時に読みかけの本があったもんだから、ちょっと読んだ。野党議員の質問には聞いても聞かなくてもどっちでもいいようなやつもある」と、答えている。こりゃダメだ。
同紙は、25日にも、「国会は『読書の府』?」という見出しで、閣僚経験者や現職の副大臣など少なくとも10人が、5、6月の本会議や各委員会で書籍などを読んでいたことを伝えている。たとえば、野田聖子・元総務相は、総理の椅子を狙うライバルのことが気にかかるのか読んでいたのは『女帝』。現職の義家弘介・法務副大臣は、書面で見解を求められ「ご指摘や誤解を受けることがないよう、職務に精励してまいります」とだけ、回答したそうだ。
出た!紋切り型の「誤解」。伝説のヤンキー先生が聞いたら大変なことになるぞ。情けない。
いずれにしても、この人たちにとって国会は、市井の人が行くことのできない場所、つまり秘所地。そこで読書三昧。
これこそが、ワーケーションってか。内職好きの議員各位にVACATIONのスペルのもう一つの覚え方をお教えしよう。
バ・カ・チ・オ・ン!
「地方の眼力」なめんなよ
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