裁判には時々おかしげなことが起こる【坂本進一郎・ムラの角から】第37回2020年8月19日
裁判には時々おかしげなことが起こるようだ。長沼裁判の時もそうであった。長沼裁判は1970年代の安保闘争と併せて激しく戦われ、この戦いは自衛隊違憲か否かで有名になった。ところが、札幌裁判地裁裁判長平賀は担当裁判官に、この裁判は取り下げるように圧力をかけたのである。この裁判は圧力事件でも有名になった。裁判官は独立性があるので、圧力は独立性、中立性を損なう恐れがあるからである。
◆禁じ手を使った政府
ところが日本の農業生システムを崩しかねない事件が起きた。今、三里塚の市東さんの農地取り上げで、市東さんと政府は争っているが、空港会社の様々な愚行が明らかになってきた。その一つは農地法20条(賃貸借の解約等の制限)の不当使用(農地法が農地法で農地を斡旋する)である。農地法は農地と農民を守るため、戦後誕生したものである。農地法の戦後を振り返ってみよう。
農地法は食糧管理法と並んで戦後の農業を支えてきた二本柱である。農地法は農地改革の熱気が冷めやらぬ、1952年(昭和27)に制定された。農地法の精神は、戦後の農地改革で獲得した自作農主義を守ることに合った。そこには日本人の農地観が投影されている。その農地観は農地を所有できるのは、そこを耕すものに限られるという考え方である。それゆえ農地は先祖からの借り物であり、さらにムラからの借り物であり、そうして預かった農地は子供に無償で譲るというバトンタッチ方式をとってきた。
政府が農地法を禁じ手の中に放り込んだのは1970年の賃貸借が導入されてからである。もっとも規模拡大の要求が強くなってくると、農地法も規模拡大の要求に合わせた法律改正を避けてとうれなかった。とはいえ農地法の根幹にふれることはやっかいなことになるので、賃貸借、農用地利用促進法を制定し,農業整備を行なっていく。木に竹を接ぐようにいびつな法改正になったのは、自作農主義が頑固に根ずいていたからであったが、自作農主義に傷がついたのも事実であった。
◆裁判官は役人か、それとも権力者
2018年12月20日。この日請求意義裁判の言い渡しが千葉地裁で言い渡された。請求意義裁判とは何か。それは市東さんの農地明け渡しが、2016年10月25日の最高裁判決により確定判決が出た。これにより市東さんの農地は没収ということになる。だが農地には「公共性」があるという普遍性を訴えて、弁護団は最高裁判決に異議申し仕立てをした。その結果異議申し立ては採用された。これは全国でも珍しいケースといわれる。
僭越ながら裁判官は我々と対峙するときどんな気持ちであろうか。国策に沿った裁判官にお目にかかるときがあるが、こういう場合は任命時点から判決は決まったようなものである。中にはこういう場合がある。すなわち、東京高裁に向けた我々仲間との折衝の最中、担当裁判長は「我々は小役人のようなものだからね」といったという。小役人という言葉には、この判決は上からの指示によって書いた。したがって我々には責任がないというニュアンスが伝わってくる。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(150)-改正食料・農業・農村基本法(36)-2025年7月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(67)【防除学習帖】第306回2025年7月12日
-
農薬の正しい使い方(40)【今さら聞けない営農情報】第306回2025年7月12日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 茨城県2025年7月11日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月11日
-
【注意報】果樹に大型カメムシ類 果実被害多発のおそれ 北海道2025年7月11日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月11日
-
【注意報】おうとう褐色せん孔病 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】出会いの大切さ確信 共済事業部門・全国共済農協連静岡県本部会長 鈴木政成氏2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】農協運動 LAが原点 共済事業部門・千葉県・山武郡市農協常務 鈴木憲氏2025年7月11日
-
政府備蓄米 全農の出荷済数量 80%2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA加賀(石川) 道田肇氏(6/21就任) ふるさとの食と農を守る2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA新みやぎ(宮城) 小野寺克己氏(6/27就任) 米価急落防ぐのは国の責任2025年7月11日
-
(443)矛盾撞着:ローカル食材のグローバル・ブランディング【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月11日
-
【2025国際協同組合年】協同組合の父 賀川豊彦とSDGs 連続シンポ第4回第二部2025年7月11日
-
米で5年間の事前契約を導入したJA常総ひかり 令和7年産米の10%強、集荷も前年比10%増に JA全農が視察会2025年7月11日
-
旬の味求め メロン直売所大盛況 JA鶴岡2025年7月11日
-
腐植酸苦土肥料「アヅミン」、JAタウンで家庭菜園向け小袋サイズを販売開始 デンカ2025年7月11日
-
農業・漁業の人手不足解消へ 夏休み「一次産業 おてつたび特集」開始2025年7月11日
-
政府備蓄米 全国のホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」で12日から販売開始2025年7月11日