(196)「風が吹けば桶屋が...」ではないが...、他人事ではない【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年9月4日
一見すると何も関係無いような事や場所に影響が出ることを、日本では昔から「風が吹けば桶屋が儲かる」と言っていました。最近でこそ船舶や航空機の発展により他国との往来が盛んになりましたが、どうも外国で発生したことの影響を「桶屋」のように肌で感じることが我々は苦手なのかもしれません。
農林水産省が公表した「アジアにおけるASFの発生状況」(2020年8月30日現在)を見ると、アフリカ豚熱(ASF:African Swine Fever、以下、ASF)は今年に入っても依然としてインド、ミャンマー、ベトナム、韓国、中国、フィリピンなどで発生していることがわかる( 【アジアにおけるASFの発生情報】ページ中段 )。
我々の日常生活は新型コロナウイルス感染症への対応に忙殺されているが、家畜の感染症が終息した訳ではないことを十分に理解しておく必要がある。豚肉は中国だけでなく、ベトナムやフィリピンなどアジア各国で重要な食料でありタンパク源である。2018年以降のASFにより、世界最大の豚肉生産・消費国である中国では、年間5500万トン水準で推移していた豚肉生産量が3600万トン(米国農務省7月見通し)にまで減少している。
これに対し、同じ期間に消費は5500万トンから4030万トンへの減少である。この差は簡単に言えば、消費を抑えるか、備蓄で対応するか、国際市場で調達するしかない。米国農務省の数字はこれを裏付けており、中国の豚肉輸入数量は、2018年の150万トンから2020年には440万トンへと大きく伸びている。
単年度の一時的逼迫ということであればこの程度の輸入でそれなりに需給は落ち着くであろうが、問題は冒頭で述べたASFが思わぬところに影響を及ぼす可能性が出始めている点である。
第1に、中国が年間440万トン水準の豚肉を国際市場で調達するということは、年間800~1000万トン規模でしかなかった国際豚肉市場に多大な影響を及ぼすことを意味している。いきなり市場の半分を買い付けるプレーヤーが登場すればどうなるかは火を見るより明らかである。もちろん、価格の急騰は輸入国にとっても望ましくないため、それなりの方法を取るであろうが、中長期的には大きな圧力となることは間違いない。これは中国国内でASFが長期化した場合、より大きな問題となる。
第2に、仮に中国国内でASFが無事終息しつつある場合、何が起こるか。実は、この場合も、考えておく必要がある。当然、当局は必死で終息に務めるであろうし、生産者も同様であろう。そうなると、ひとつは「食の安全」に対するより厳格な管理手法が強制的に取られるようになることである。
もうひとつは、伝統的な養豚が「食の安全」の枠組みの中で、あらゆるレベルで現代的な仕組みに変化する可能性がある。この点について、米国は非常に興味深く現実的なようだ。冒頭で述べたように、中国の豚肉生産量は大きく減少している、つまり豚の頭数も減少している...にもかかわらず、実は中国が米国から買い付ける飼料穀物は順調、いやそれ以上のペースで伸びているからである。
これは何を意味するか。恐らく、これまで食品残さを与えてきた多くの養豚農家がASFに感染することを避けるため、しっかりとした規格で生産された配合飼料へシフトしているのではないか...というものである。そうなると中国の配合飼料業界は現在「桶屋」の立場にいることになる。思わぬところで需要が急増したからだ。なるほど、などとうなずいていてはいけない。
第3の問題として、中国国内の養豚で食品残さを飼料としてきた割合がどのくらいなのかについて詳細な数字は筆者にはわからない。だが、相当数は存在するであろう。これが商業用の配合飼料にシフトした場合、トウモロコシやマイロ(コウリャン)の輸入数量は激増することとなる。ちなみに、中国のトウモロコシ輸入は2016年246万トン、2018年448万トン、そして2020年には700万トンが見込まれている。マイロに至っては2020年の世界の貿易数量800万トンのうち610万トンが中国の輸入である。その意味で貿易の数字は非常にわかりやすい。
日本のトウモロコシ輸入1600万トンもそう遠くない時に追い越されるかもしれない...ということだ。
中国はASFで大変だ...などと他人事のように見ていると、いつの間にか先方は飼料を含む養豚の仕組みそのものを大きく構造から切り替え、それが日本の穀物輸入に対する大きな脅威になる可能性がある...ということですね。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(164)-食料・農業・農村基本計画(6)-2025年10月18日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(81)【防除学習帖】第320回2025年10月18日
-
農薬の正しい使い方(54)【今さら聞けない営農情報】第320回2025年10月18日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第114回2025年10月18日
-
【注意報】カンキツ類に果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(1)2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(2)2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(3)2025年10月17日
-
25年度上期販売乳量 生産1.3%増も、受託戸数9500割れ2025年10月17日
-
(457)「人間は『入力する』葦か?」という教育現場からの問い【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月17日
-
みのりカフェ 元気市広島店「季節野菜のグリーンスムージー」特別価格で提供 JA全農2025年10月17日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」群馬県太田市で25日に開催2025年10月17日
-
【地域を診る】統計調査はどこまで地域の姿を明らかにできるのか 国勢調査と農林業センサス 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年10月17日
-
岐阜の飛騨牛や柿・栗など「飛騨・美濃うまいもん広場」で販売 JAタウン2025年10月17日
-
JA佐渡と連携したツアー「おけさ柿 収穫体験プラン」発売 佐渡汽船2025年10月17日
-
「乃木坂46と国消国産を学ぼう!」 クイズキャンペーン開始 JAグループ2025年10月17日
-
大阪・関西万博からGREEN×EXPO 2027へバトンタッチ 「次の万博は、横浜で」 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月17日
-
農薬出荷数量は0.5%増、農薬出荷金額は3.5%増 2025年農薬年度8月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年10月17日
-
鳥取県で一緒に農業をしよう!「第3回とっとり農業人フェア」開催2025年10月17日
-
ふるさと納税でこどもたちに食・体験を届ける「こどもふるさと便」 IMPACT STARTUP SUMMIT 2025で紹介 ネッスー2025年10月17日