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コメ生産・流通「囲い込み」の懸念【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年1月21日

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種苗法改定と農産物検査法改定が相俟って、農産物流通の主役が種子企業に移っていく懸念が生じており、JAとしての対応が問われるとともに、生産から消費まで、国民全体の食料安全保障のあり方が問われつつある。

種苗法改定の意味

種苗法の改定で、次の流れが完成した。国・県によるコメなどの種子の提供事業をやめさせ(種子法廃止)、その公共種子(今後の開発成果も含む)の知見を海外も含む民間企業に譲渡せよと命じ(農業競争力強化支援法)、次に、農家の自家増殖を制限し、企業が払下げ的に取得した種を毎年購入せざるを得ない流れができた(種苗法改定)。

農産部検査法改定の概要

さらに、これに、産地品種銘柄を廃止し、コメの検査を緩和して企業主導のコメ流通を容易にする農産物検査法の改定も加わろうとしている。産地品種銘柄とは、都道府県が指定して、検査体制を確保し、コメの産地・品種・産年が表示できるようにする仕組みである。認定機関による検査米でないと、産地・品種・産年の3点セットが表示できない。この米穀検査の仕組みを緩和する方向性が出されている。

農産物検査法におけるコメ等級の見直しは、消費者サイドも求めてきた点である。「カメムシ斑点米(着色粒)に厳しい等級があり、着色粒が1000粒に1粒(0.1%)までなら一等米だが、それ以上になると二等米、三等米になってしまう。そうするとコメの価格が下がるため、農家は一等米をめざしてカメムシ防除に励むことになり、ネオニコチノイド系農薬が大量に使われる」(安田節子さん)。この見直しは評価できる。

「囲い込み」の懸念

一方、産地品種銘柄の廃止を含め、自主検査を認めたり、未検査米に対する表示の規制を廃止したり、という形の検査制度全体の緩和は、様々なコメの流通をしやすくする側面はある。しかし、品質の保証に不安が生じるだけでなく、輸入米の増加(安田節子さん)や民間企業によるコメ生産・流通の「囲い込み」の促進につながる懸念(印鑰智哉氏)も指摘されている。

種苗法改定による育種企業の権限強化と農家の自家増殖制限、それに、コメ検査の緩和は、企業が主導して、種の供給からコメ販売までの生産・流通過程をコントロールしやすい環境を提供する。種を握った種子・農薬企業が種と農薬をセットで買わせ、できた生産物も全量買い取り、販売ルートは確保するという形で、農家を囲い込んでいくことが懸念される(印鑰氏の模式図参照)。

印鑰智哉『種苗法改正その後』出所: 印鑰智哉『種苗法改正その後』

重要なJAの対応

この枠組みの中に、JA、特に単協レベルのJAがどうかかわっていくかは、悩ましい側面もある。積極的に、企業と農家との中間にJAが入ることによって、農家の不利益にならないような取引契約になるよう踏ん張れる側面もあるが、種も肥料も農薬も指定された契約になると、「優越的地位の乱用」を許し、いつの間にか、みなが取り込まれて、気が付いたら「収奪」されてしまう危険もある。

本来、農協は共販によって取引交渉力の強い買手と対峙して農家(ひいては消費者)の利益を守るためにあるが、各JAが企業主導の生産・流通に組み込まれてしまうと、そうした農協の役割が地域レベルでも、全国レベルでも、削がれてしまうリスクがある。そういう点でも、企業による「囲い込み」に対するJA組織の立ち位置については、農家と地域全体の利益を守る協同組合としての役割が損なわれることがないようにしなくてはならない。

地域全体の力の結集

すべての企業がそうだというわけではけっしてないが、この「囲い込み」に飲み込まれてしまうことは、農家・農協のみならず、地域の食料生産・流通・消費が企業の「支配下」におかれることを意味する。農家は買いたたかれ、消費者は高く買わされ、地域の伝統的な種が衰退し、種の多様性も伝統的食文化も壊され、災害にも弱くなる。我が国では表示もなしで野放しにされたゲノム編集も進行する可能性が高く、食の安全もさらに脅かされる。

食料は命の源であり、その源は種である。我々は、地域で育んできた大事な種を守り、改良し、育て、その産物を活用し、地域の安全・安心な食と食文化を守るために結束するときである。地域の多様な種を守り、活用し、循環させ、食文化の維持と食料の安全保障につなげるために、シードバンク、参加型認証システム、有機給食などの種の保存・利用活動を支え、育種家・種採り農家・栽培農家・消費者が共に繁栄できる地域の構成員の連帯と公共的支援の枠組みの具体化が急がれる。生産から消費までのトレーサビリティを確立すれば、表示義務がなくともゲノム編集食品などの不安な食品を地域社会から排除できる(「ゲノム編集ではない」という任意表示は可能であることが活路になる)。

協同組合、共助組織、市民運動組織と自治体の政治・行政などが核となって、各地の生産者、労働者、医療関係者、教育関係者、関連産業、消費者などを一体的に結集して、地域を喰いものにしようとする人たちは排除し、安全・安心な食と暮らしを守る地域住民ネットワークを強化するために、今こそ、それぞれの立場から行動を起こそう。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

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