水田リノベーション事業は本当に"刷新"なのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2021年1月26日
農水省が2年度第3次補正予算で計上した「水田リノベーション事業」。リノベーションとは“刷新”のことだが、この事業の最大の狙いは主食用米減らしである。3年度の本予算と合わせて「かつてない」3400億円もの減反予算が投入される。農水省はその効果を確認すべく来月早々にも中間報告を取りまとめる予定だが、悲しいかな今のところその成果が聞こえてこず、農水省の担当部署では「産地は協力的でない」とぼやいている。協力的でないのは刷新の意味が伝わっていないためかもしれない。
農水省が事業担当者用に作成した水田リノベーション事業Q&Aに以下のようなことが記されている。
問い「加工用米などについては需要の伸びが期待できない中で、加工用米等を増産する対策を講じた結果、加工用米の価格が低下するなど、産地にとって不利な取引を喚起する恐れがあるのではないか」
答え「・あくまでも実需者と生産者の合意に基づく数量や価格等で締結していただくことが基本です。・本事業を通じて、実需者との結び付きを強化し、低コスト生産等に取り組んでいただくことで、実需者にとってはニーズに合致したコメ等の安定確保が可能になり、生産者にとっては後年度に渡って需要の維持や拡大が見込まれる他、コメであればMA米など輸入農産物からの置き換え効果も期待できるものと考えます」
この回答を読んだ事業担当者は驚愕した。なぜなら「加工用米はMA米と同値で売れば良いじゃないか」と受け取ったからである。直近の加工用向けMA米の売却価格は、うるち米がトン10万3865円、もち米が17万0129円であり、この価格と同値水準にするには3年産加工用米を2年産より1俵3000円以上値下げしなければならない。
いかにリノベーション事業で産地交付金が倍額の10a当たり4万円支給されてもそこまで加工用米を値下げできない。ところがそれが可能になる産地が現れたのである。それは他でもない日本一のコメ産地新潟県である。
新潟県の3年産主食用米の目標数量は52万tで、2年産に比べ7万5400tも減らさなくてはならない。面積ベースでは1万1200haも減反しなくてはならない。どうするのかと言うと国の産地交付金にプラスして県や市が独自に助成金を上乗せして生産者手取りを増やして主食用米から新規需要開拓米や高収益作物に転換してもらうことになった。
新規需要開拓米のうち面積ベースで拡大面積が最も大きいのが加工用米である。2年産加工用米の作付面積は5056haであったが、これを3944ha増やして9000haにするという目標を立てている。県では加工用米を生産した場合の10a当たりの収入試算を作成しており、それによると主食用でコシヒカリを作付した場合、10a当たり13万9000円だが、加工用米は助成金と合せると15万7000円になると試算している。この試算では10a当たりの収量をコシヒカリで540㎏と試算する一方、加工用米は多収品種で660㎏と試算しており、単収分は割り引いて見なくてはいけないが、それでも主食用を作付するより、加工用米を作付した方が10a当たり1万8000円も手取りが多くなれば生産者にとっても魅力がある。
ただし、問題は加工用米を買ってくれる実需者がいるのかと言う点である。試算では加工用米の販売価格は1俵8636円になっている。果たしてその価格で買ってくれる実需者がいるのか? と言う点で、最も加工用米の使用量が多い清酒業界はコロナ禍で国内外とも販売量が落ち込み、2年産米の消化にも苦しんでいる状況で3年産加工用米の購入契約量を上乗せ出来るところはほとんどない。新潟県は米菓の大生産県だが、米菓メーカーの主原料はMA米と特定米穀で、これと振り替えるとなると販売単価を1俵6000円に引き下げなくてはならない。また、商品表示では外国産米から国産米使用に変える必要がある。変えなくて済む数量は全体使用量の30%以内だ。
それ以上に米菓メーカーが懸念しているのが、水田リノベーション事業は今年限りで来年も続く保証はなく、原料米の安定供給確保に繋がらないと見ている点。要するに米菓メーカーは、農水省の回答にある「後年に渡って」この事業が存続するとは信じていないのである。
リノベーションと言う表題を付けたからには、米菓メーカーのみならず全てのコメ加工食品業界に対して「国産米を外国産米並みの価格で供給できる体制を将来にわたって構築します」と明記すべきなのである。もちろん輸出用米についても同様であることは言うまでもない。
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