加工用米、特定米穀、MA米、そして主食用米について【熊野孝文・米マーケット情報】2021年2月16日
「このままでは我々の居場所がなくなってしまう」と特定米穀業者が声を上げ始めた。発端は水田リノベーション事業による加工用米への助成金の上乗せで、清酒や米菓、味噌などコメ加工食品メーカーとの3年産米の契約期限の中間とりまとめの締め切りが3月5日に迫っているため、実需者との契約を確保したい産地側が破格の安値を提示、それが締結されると競合する特定米穀の行き場がなくなると恐れているのだ。

2年産米での加工用米の販売価格はうるち米が1俵9000円程度、もち米が1万円程度であった。加工用米の価格は相対で決められるため上下に値開きがあるが中心値はこの程度であった。ところが水田リノベーション事業で加工用米にこれまでの2倍の10アール当たり4万円の助成金が支給されることになったことから販売価格を引き下げても生産者手取りが確保されるとあって加工用米への関心が一気に高まった。なかでも最も加熱化しているのが新潟県である。
新潟県には水田リノベーション事業予算290億円の内、全国で最も多い58億円が配分され、それに加え県や市町村でも独自予算を計上していることから、これらを加算すると販売価格を下げても生産者手取りは減らないという構造になった。さらに新潟県は全国一の米菓生産県で7割以上のシェアを占めている。米菓業界全体の原料米使用状況がどうなっているのかというと、農水省の調べ(元年度)では、せんべいの原料のうるち米が13万トン、あられの原料のもち米が6万トンになっている。うるち米の制度別の使用量は、一般主食用米が1万トン、加工用米が2万トン、特定米穀5万トン、MA米3万トン、輸入米粉調整品2万トンとなっており、特定米穀の使用量が最も多い。言い換えれば特定米穀業者にとって最も販売量が多いのが米菓業界で、新潟県内に特定米穀を搗精する業者が多数存在する。
3年産政府備蓄米入札が終わった後、すぐさま農協系統や商社、大手卸、原料米取扱業者は3年産加工用米を契約すべく、米菓メーカーと交渉を開始した。これも政府備蓄米の落札価格と同じで、当初言われていた価格より大幅に安い価格が打診され始めた。面白いことに農水省は水田リノベーション事業の事業者向けのQ&Aで、加工用米についてMA米との振替を推奨する文言を答え欄に記載していたが、この文言はすっぱりと消されている。MA米を市場から駆逐するような文言に圧力がかかったのか、それともいたずらに加工用米の値下げを推奨するような文言が産地側の批判を浴びたためなのか理由はハッキリしないが、すでに時遅しで、契約を働きかけているところの中には破格の価格条件を提示しているところもある。米菓、味噌業界の原料米購入のスタンスは非常に明確で、国産米であろうと外国産米であろうと価格が安い方を使用する。
米菓業界は特定米穀の価格が上昇するとMA米の使用比率を上げ、その量は4倍にも5倍にもなったりする。商品の原料米表示欄に国産か外国産か表示する必要のない味噌業界はもっと極端で、国産特定米穀とMA米の使用比率が価格によって反転する。これまで米菓、味噌業界の加工用米使用量が少なかったのはMA米や特定米穀に比べ価格が割高だったことに他ならない。そこに新たに特定米穀並みの加工用米が供給されるようになったら米菓、味噌業界も加工用米にシフトするのは明らかで、特定米穀業者が自らの居場所がなくなるという危機感が芽生えるのは当然ともいえる。それに追い打ちをかけるように今年栃木県に大手卸2社が出資する特定米穀搗精工場が稼働する予定で危機感を煽るような状況になっている。
主食業界では、こうした動きは加工原料米の世界の出来事で自分たちには直接的な影響はないと思っているかもしれないが、それは認識不足と言える。格安の加工用米が登場することによってコメ全般に「玉突きが現象」が起きる。わかりやすい例は清酒で、原料米の需要のパイが限られているため加工用米の使用が増えるとその分、一般主食用米のコメが溢れる。結果的にコメの全体需給が緩む。同じコメを制度によって主食用米と加工用米に区分して主食用から加工用米に転換すれば主食用米の供給量が減って需給が締まり、価格が上昇するというのが農水省が考える需給調整のやり方だが、実際にはそうはならないのである。用途で仕向け先を分けても生産量が増えれば需給は緩むのである。そろそろこうした政策はコメの需給を安定させないどころか産業政策として逆行していることを気付くべきだ。
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