農村と都市のコロナ【森島 賢・正義派の農政論】2021年2月22日
先週の17日になって、ようやくコロナのワクチンを輸入し、接種を始めた。日本は、世界で83番目という遅い国だという。国産ワクチンの開発が遅れ、輸入に依存したからである。感染症について、日本は医療後進国ということになる。
もちろん、この原因は研究者の能力の問題ではない。ワクチンの開発が、日本では利益を生まないから、という、利益第一主義の経済の問題である。それと同時に、利益が出ないからといって支援をしてこなかった、市場原理主義の政治の問題である。
ワクチン開発の問題だけではない。国民の健康を軽視する政治が、国民に甚大なコロナ禍をもたらしている。
ここで、コロナ禍の実態を、農村と都市とを比較して見てみよう。
上の図は、人口1万人当たりの累積感染者数を縦軸にし、農業県か都市県かを示す農業生産割合を横軸にして、都道府県ごとに示したものである。丸の大きさは、その都道府県の人口の大きさである。
資料はNHKが整理したものだが、実態をそれほど忠実に示したものではない。原資料である厚労省の資料が、実態を隠そうとして検査を怠ってきたからである。
厚労省は、当初から、いわゆる専門家の知恵を盾にして、検査器具が不足しているからと言い、次は試薬の不足を言い、その次は要員の不足、という言い訳をしてきた。そうして、感染の実態を隠し、感染を広げ、国民に苦難を強いてきた。
こうした質の良くない資料ではあるが、感染の実態を農村と都市に分けて考えることができる。
◇
上の図を、やや詳しく見てみよう。
この図は、農業生産割合が1%を境にして、異なる様相を示している。1%以上を農村県とし、1%以下を都市県とすれば、農村の感染率と都市の感染率との間に格段の違いがある。10倍に近い。しかも大都市ほど、その倍率が大きい。
このように見ると、コロナ問題は、圧倒的に都市の問題である。その余波が農村にまできた、と考えていいだろう。
それは、コロナに対する都市の脆弱さであり、農村の強靭さである。
(なお、北海道と沖縄は、やや特殊なところに位置しているが、ともに観光地であることが共通している。)
◇
いまのコロナ禍は、今後もしばらくの間つづくだろう。
ワクチンが、多くの国民に行き渡るまでには、まだまだ長い月日がかかるだろう。
変異種のコロナが蔓延しだしていて、いまのワクチンがどれほど有効か、分かっていない。だから、どの程度の猛威を振るうかは、まだ分かっていない。
さらに、今後10年以内に、別のコロナが蔓延する、という専門家が多い。
これらに対して、いますぐに備えなければならない。農村と都市とでコロナ禍に程度の違いがあることに注目して、その対策に生かさねばならない。
◇
農村と都市との差は、自然の差だけではない。社会構造の差であり、政治体制の差、とりわけ地方政治の体制の差である。
多くの専門家は、都会の雑踏がコロナの大きな感染源だという。しかし、若者にとって、農村の豊かな自然も魅力だろうが、都会の喧騒も憧れの的のようだ。それは、都会の華でもあるし、アダ花でもある。
これは、社会の深奥のところに根差している。だから、コロナも資本主義の生産構造にまで手を付けないで、所得の再配分などで解決できるような軽い問題ではない。
多くの専門家がいうように、いまのようなパンデミックが数年ごとに起こるなら、資本主義の根幹を揺るがす事態になるだろう。これは、資本主義と対峙する、農協などを中心に据えた協同組合社会に、突き付けられた問題でもある。
(2021.02.22)
(前回 医療体制の解体的再編を)
(前々回 「ゼロコロナ」を具体化せよ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(1)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(2)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(3)2025年9月18日
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(3)病気や環境幅広く クリニック西日本分室 小川哲郎さん2025年9月18日
-
【全中・経営ビジョンセミナー】伝統産業「熊野筆」と広島県信用組合に学ぶ 協同組織と地域金融機関の連携2025年9月18日
-
【石破首相退陣に思う】米増産は評価 国のテコ入れで農業守れ 参政党代表 神谷宗幣参議院議員2025年9月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
-
「ひとめぼれ」3万1000円に 全農みやぎが追加払い オファーに応え集荷するため2025年9月18日
-
アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日
-
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」三重県で開催 JA全農2025年9月18日
-
秋の交通安全キャンペーンを開始 FANTASTICS 八木勇征さん主演の新CM放映 特設サイトも公開 JA共済連2025年9月18日
-
西郷倉庫で25年産米入庫始まる JA鶴岡2025年9月18日
-
日本初・民間主導の再突入衛星「あおば」打ち上げ事業を支援 JA三井リース2025年9月18日
-
ドトールコーヒー監修アイスバー「ドトール キャラメルカフェラテ」新発売 協同乳業2025年9月18日
-
「らくのうプチマルシェ」28日に新宿で開催 全酪連2025年9月18日
-
埼玉県「スマート農業技術実演・展示会」参加者を募集2025年9月18日
-
「AGRI WEEK in F VILLAGE 2025」に協賛 食と農業を学ぶ秋の祭典 クボタ2025年9月18日
-
農家向け生成AI活用支援サービス「農業AI顧問」提供開始 農情人2025年9月18日
-
段ボール、堆肥、苗で不耕起栽培「ノーディグ菜園」を普及 日本ノーディグ協会2025年9月18日
-
深作農園「日本でいちばん大切にしたい会社」で「審査委員会特別賞」受賞2025年9月18日