(221)「正解探し」と「考えること」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年3月5日
ヒーロー物には「正義の味方」がよく登場します。私の古い記憶はアニメの「鉄人28号」、「手ぇを握れ、正義の味方、叩ぁきつぶせ、悪魔の手先…」というフレーズは半世紀以上を経た今でも時々アタマの中に蘇ります。
ところで、「正義とは何か」を大学ではどこで学べばよいのか、これを知ったのは実はかなり後のことです。
子供の頃、「正義とは何か」のような事を考えた経験は多くの人が持っているであろう。ただし、これを学問として体系的に学ぶ機会は意外と少ない。導入は中学の「歴史」、高校の「倫理社会」あたりだが、ロックやルソー、カントなど、有名な人の名前が次から次へと登場し、「誰々は〇〇を主張した人」のような形で試験対策をして終了...、というのが大昔の自分自身であったような気がしている。
そもそも「正義の女神」が何故、秤と剣を持っているのか、これも後年、法律を少し真剣に学んだ際、あらためて理解仕直した覚えがある。ちなみに、2021年3月4日時点のWikipediaで「正義の女神」と入力すれば、いきなり、ギリシャ神話の女神テミスとローマ神話の女神ユースティティアの名前が登場する。前者は現在のある雑誌の名前、後者は英語のjusticeになる。
説明を読むと、秤は正邪を量る「正義」を、剣は「力」を象徴するとあり、「剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力」に過ぎず、正義と力が法の両輪であることを示している」とある。
ところで、なぜ「正義」に「力」が必要なのか。剣は正義を貫くという事でもあるが、ドイツの法学者であるイェ-リングは「世界中のすべての権利=法は闘い取られたものである」と述べている。このあたりは知識としても有益な話だが、実はイェ―リングはさらに興味深い話をしている。手元の岩波文庫から引用してみよう。
「多数の個人の生活は、あらかじめ敷設された法の軌道の上を無事平穏に進行する。そうした人々に向かって権利=法は闘争であると言ってみても、わかってもらえるはずはない。かれらにとって権利=法とは、平和と秩序の状態にほかならないのだから。かれら自身の経験からしてもそう考えるのは全く当然であって、それはあたかも、棚から牡丹餅で大きな遺産を手に入れた相続人が、財産とは労働であるという言葉に耳を傾けないのと同様である」イェ―リング『権利のための闘争』(30頁)
最初に読んだのは何年も前だが、今でも時々ふと手にとることがある。
例えば、学生がいろいろな問題について「答え」を求めてきた「後」などだ。課題の答えでも良いし、何かへの対応の仕方でも良い。何故、最後まで徹底的に自分で調べ、考えようとしないのだろう。何故、自分で未知の世界へ踏み出そうとしないのだろう。それは恐らく、検索すれば一瞬で何等かの答えが出ることや、誰かに答えを聞くことが「当たり前」になったからかもしれないし、そもそも自分を含め大多数の学生は昔からそうだったのかもしれない。学生にとって、聞けば答えてくれる先生は良い先生である。その点、私は基本的に正解を言わない(言えない)、問いに問いで返す面倒な教員のようだ。
はるか昔、社会人1年目の頃、トラブルの原因を一人で調べていたところ、ある先輩から「知っている人に聞け、その方が早い」と言われたことが今でもアタマに残っている。確かにそうだが伝聞では細部が詰められない。聞いた内容と自分で調べた内容が異なっていたことが何度かある。これを繰り返すうちにやはり緊急時以外は自分で調べ、確認しなければダメだとなり、結局今のような仕事に落ち着いた。
世の中の多くの仕事は多分、できる人からエッセンスを聞けばそれなりにやり抜ける。だが、例え小さなものでもゼロから自分で何かを作り出すには人から答えを聞く姿勢のままでは難しい。それにもかかわらず、依然として「正解」という名の「青い鳥」を求める人や組織は多い。もし、日本や日本企業の競争力が落ちているとしたらそこに原因があるのではないだろうか。
就職活動や卒論を通じ、学生達の何人かはそれに気が付き自ら考え始めるが、社会人になっても「正解」だけを求める人間は多い。イェ―リングのいう「平和と秩序の状態」の中で、日々の仕事に身を投じていても恐らく多くの場合はそれほど問題ない。だが、それが繰り返されるといつのまにか、素早く格好の良い「答え」を探しだすことを「考える」ことと誤解するようになる点にはいくつになっても注意が必要であるとつくづく思う。
* *
今日は少し長くて面倒くさい文章で失礼しました。「正解」らしきものを見つけることは比較的簡単ですが、本当に「考える」ことを習得するには実は結構手間と時間のかかる訓練が必要です。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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