福島の風評対策私案【森島 賢・正義派の農政論】2021年4月26日
政府は、コロナによる未曽有の危機にまぎれて、福島原発事故による汚染水を海に投棄することを決めた。トリチウムの濃度を、国の基準の40分の1、国際基準の7分の1の濃度に薄めて投棄するから安全だ、という。
これに対して、漁業者や農業者は、ただちに反対した。安全性は重要だが、漁業者や農業者は、風評被害という実害を受けている。
菅義偉首相は、この風評被害の対策について、「できることは全部やる」と言った。だが、具体策は何もない。
風評被害は、安全性が仮に10倍になったからといって、10分に1に減るわけではない。この事実を、いわゆる原発村の科学者たちは考えない。彼らは、漁業者や農業者は非科学的で無学だ、といいたいようだ。
しかし、非科学的なのは彼らなのだ。彼らは科学を信じているという。40分の1に薄めたから安全だ、と信じているようだ。しかし、科学は信ずるものではない。科学は、常に疑うべきものなのだ。トリチウム濃度を40分の1に薄めれば、汚染水は安全なのか。他の未知の有害物はないのか。ことに、長期的にみた場合でも安全なのか。この問題は、人間の生命と健康に直接かかわっている。
このように、汚染水の海中投棄の問題は、安全性の問題と風評被害の問題の2つの問題がある。このうち、ここでは風評被害を考えよう。
◇
風評対策の中心部には、漁業者や農業者などの実害に対する直接の補償をおくべきである。補償すべき補償額は、原発事故が起きなかったと仮定して、そのときの収入と、事故が実際に起きた後の、実際の収入との差額であるべきである。もちろん事故直後から今までの10年間を含むし、今後、風評被害がなくなるまでの間つづける。
以下で、その私案の骨子を述べてみよう。
◇
今までの10年間の補償であるが、その金額は、事故直前数年間の平均収入と、10年間の各年の実際の収入との差額にする。もしも実際の収入の方が多ければ、補償金額はゼロにしていい。
また、この補償金とは別に、全員に慰謝料を払う。これは、補償金だけでは償いきれない苦難に対するものである。年齢を加味して単価を決めればいい。この間に死亡した人の分は、遺族に払う。事故後10年経ったいま、あらためて清算すべきである。
◇
つぎは、今後、風評被害がなくなるまでの補償である。
農業を考えよう。風評被害は福島産というだけで、買い手が減り、価格が下がる。その結果、生産者の収入が減る、という被害である。
この被害は補償しなければならない。
そのためには、原発事故を起こし、風評を招いた責任者が、価格を補填すればいい。そうすれば、消費者は安い価格で福島産の安全な農産物を買って消費できる。福島の生産者は、福島産の産品が、他産地の産品と同等な価格で売れたのと同じことになる。
◇
このようにすれば、市場原理に従って良質なものは、それなりに高価で売れるようになる。また、市場競争の結果、良質なものが市場を支配するようになる。
こうした直接価格補填を、風評被害がなくなるまで続ければいい。風評被害がなくなったかどうかは、これも市場で決まる。福島産の産品が、他産地の産品と同等な価格に戻ったかどうか、で決まる。
もちろん、ここでも価格補填とは別に、慰謝料を払わねばならない。
首相は、「できることは全部やる」といったのだから、やらねばならない。
そうしなければ、昨日、北海道と長野と広島での選挙で噴出したような、政府の有言不実行に対する不信が、福島の風評対策を含め、コロナ対策を含めて全国へ広がるだろう。
(2021.04.26)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日