ニュー"農"マルの視点 千葉農大校で痛感「伝える力」【記者 透視眼】2021年4月30日
コロナ禍で憂鬱な日々が続く。そんな時は、トリップ=小旅行がいい。むろん密を避け人を避ける都市近郊の農村へ足を伸ばす。すると都会では見えない視点に気づく。ニューノーマルはニュー“農”マルでもあるのか。
千葉県立農大校への道すがら
私事で恐縮だが、この春から千葉・東金にある千葉県立農大校で授業を持つことになった。対象は十数人の研究科の生徒たち。二十歳そこそこの男女だが、将来の農の担い手候補であり、大切に育て、微力ながら何か将来に役立つことを一つでも二つでも学んでほしいと願っている。
そんな時、農大校に通う道すがら、いろいろな発見があった。学ぶのはこちらの方だと思い至った。記者の〈透視眼〉発揮の時でもある。
水田に苗にコメ需給思う
巨大市場・東京の隣県で房総半島を抱え自然豊かな千葉は米どころ。学校は人口90万超の県都の中心にあるJR千葉駅から外房線で成東方面へ40分も行く。
この時間は微妙だ。長年、〈NHK〉ならぬ〈NOK〉、つまりは永田町(自民党)、大手町(JAビル)、霞が関(官庁)を仕事先いや取材先としてきた身にとって、40分は最寄り駅から取材先に到着する時間に近い。
それが千葉駅を起点に全く逆方向に向かう。都心とは真逆に、まさに野山深い千葉の深部に近づく。すると、これまで目にしてこなかった風景が、リアルに広がる。鳥獣害の元になるだろう耕作放棄地。だが、さすがは首都圏の台所・千葉。平場は区画整理された田に水面が広がり、まるでフランス印象派の絵画さながら青空を鏡のように映す。
のどかな田園風景にうっとり、のんびり。コロナの憂鬱を吹き飛ばすトリップの効能はさすが。ふと気づく。いま水田に植え付けられ始めた苗は出来秋にはどうなる。
既に主食用米の民間在庫は200万トン超え。米価と需給との天秤は釣り合いが取れない。
若者達は世情には無関心
受け持つ講義は「農政時評」。時々の世情、ニュースを交え今の農政問題を読み解き、考えて見ようという内容だ。
時勢を追い続け、事の本質をあまり深くが考えない記者気質にはぴったりの題材ではある。
「ここ1週間のニュースで記憶に残ったものは何か」との問いに、若者らの反応はない。「君たちニュース見ている。新聞は読んでいるのか」。すると「いいえ」の反応。なるほど日米首脳会談も全く関心ないわけだ。報道ニュースを見ない。新聞もほぼ全員が取っていない。情報源はスマホのヤフーニュースか。やはり、政治情勢で自民党が圧倒的に強い理由も分かる。世の不正などはどこ吹く風。40数年前のマルクス、レーニン片手に激論したわが学生時代とは明らかに異なる。
「伝わる力」と「伝える力」
そうなると、相手は手ごわい。時評は何を取り上げるのかとなる。
農政をテーマに長年、日本中で多くの講演をこなしてきた。そこで分かったことは、相手の関心のないことでいくら熱弁を振るっても、話し手が悪いと聞き手は寝始めるか、女性は無駄話を始めるということ。
そこで反応が悪い、受けが悪いと話の内容を切り替える。場所、年代でも大きく異なる。
聞き手を責めてもしょうがない。講演、講義で面白くないのはまずは話し手が100%悪い。反省が必要だ。
農大校では、政治家の話をしても、そもそも政治家を知らない。いったい若い世代で誰を知っているのか。田中角栄を取り上げても口をぽかんと開けてしまう。やはり小泉進次郎か。こんな時に思い知らされる。「伝える力」と「伝わる力」だ。モデルはあの高田明、ジャパネットの創業者の話法だ。一度、ジャパネット本社、長崎の佐世保で話を聞いて感心した。高田はこう言った。「話し手の独りよがりはよくない。相手は何を欲しているのか。それに応じる」。確かに高田の商品説明は目に見えるように写実的だ。しかも、納得する。
コロナ=君という字に〈反応〉
今の若者の共通関心事は何か。やはりコロナの話題だろうと思い至る。「コロナは漢字の君という字になるんだ。コロナが収まればまた君に会えるという意もこもる」と話すと、「えっ。ああ本当ですね」と皆がガッテンした。コとロとナは君を形作る。
さて、相手に「伝わる」「伝える」が整った。
ガッテンの熱が冷めないうちに、「コロナは農村と食料を見直すきっかけにもなっている」「都市近郊で農業を目指す君たちにも工夫次第で新しい風が吹く」「コロナが君という字に変わる」。生徒らに教えながら、こちら側も学ぶ。双方向なのが情報というものだ。
コロナ禍、密を避けながらのトリップは新たな視点を思いつかせる。記者の〈透視眼〉でのぞけば、コロナ禍こそニュー"農"マルの視野が広がる。
(K)
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