(230)外から見た日本【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年5月7日
「日本と日本人が海外からどう見られているか」は、いつの時代でも気になる点ですね。少し古いですが、2015年に外務省がヨーロッパにおいて実施した調査結果を見つけましたので、掘り起こしながら考えてみたいと思います。
外務省が実施した調査(Image of Japan in five European countries)は、2015年10月27日から11月20日にかけて、イギリス・フランス・ドイツ・スペイン・ポーランドの18歳以上2500人に対し電話インタビューを実施したものだ。コロナ前の話でもあり、既に5年以上の時間が経っているため多少の変動はあるだろうが、これらの国の人々が持つ日本に対するイメージをそれなりに映し出していると考えられる。
結果は現在でも公表されているが、頁数が70頁になるため、ここでは1枚の要約版(注1)の中で気が付いた点を紹介しつつ検討してみたい。
日本人の印象や、日本が重要なパートナーであり、日本人が平和を愛する国民であることなどは当局が実施した調査ということを割り引いても、概ね予想通りである。いずれも7~9割の肯定的な答えが示されている。調査対象者の57%が外国語を学ぶことに関心があると答え、学びたい外国語の中では、スペイン語、フランス語、ドイツ語、に次いで日本語が来ていることなどは意外であったが素直に嬉しい。
さて、本題に入ろう。
「日本のイメージ」はどうか。返答は直接上記のアドレス(注1)を見て頂くのが一番だが、そのまま訳せば、
1)偉大な伝統と文化(93%)、
2)強い経済と高度な技術(90%)、
3)第二次世界大戦以降の平和を愛してきた軌跡(75%)、そして、
4)美しい自然(75%)、
である。
このうち、3)は非常に重要なポイントだがここでは脇へ置いておく。4)も中長期的にはともかく今のところ問題はないと考える。問題は1)と2)である。
調査対象者が持つ日本のイメージとして、「偉大な伝統と文化」が「強い経済や高度な技術」とともに圧倒的な割合を占めただけでなく、前者が後者を上回る点だ。これをどう理解するか、である。
こうした調査の結果を理解するには、母集団の属性が重要なポイントとなる。年齢や性別、職業、居住地域から思想・信条まで、属性を判断する要素は沢山あるが、ここではざくっとまとめてみたい。対象各国はいずれも古くて複雑な歴史を持ち、それを乗り超えて今日に至る国々である。各々の国民が自らの国と民族、そして伝統や文化に誇りを持っているはずである。だからこそ、言語や宗教、民族が異なる日本に対して同様な意識を持つ国として認めてくれたのではないかというのが筆者の感想だ。
これは裏返して言えば、他国や他人の真似事をするだけではいけない...という事でもある。スペインとイギリスは大航海時代以来、世界中に進出して活動していたし、ドイツは北海とバルト海、ポーランドはバルト海という海を持つだけでなく、隣国同士、内陸でも様々な複雑な歴史を抱えてきた。一言で言えば、いずれの国も他国と戦いの中で生き残ってきた歴史がある。当然のこととして心の底にあるのは、自らの歴史を踏まえた伝統であり文化である。それは時にエスニック・ジョークのような形で皮肉られることもあるとはいえ、やはり一面の真実を現しているからこそ、口から口へと伝えられる。
さて、日本と日本人の歴史、そして「伝統と文化」をここで述べるのは筋違いであろうが、こういう指摘はできるかもしれない。ヨーロッパ人が日本人に対して良いイメージ、とくに「偉大な伝統と文化」を評価したとしたら、それはどのような環境にあっても自らの伝統や文化を良い意味でしっかりと確立しているからこそ、であるという点だ。
振り返ってみると、筆者が意識して日本の歴史、伝統と文化を学んだのは、海外に滞在している時の方が国内にいる時よりも多い。外に出ればわかるが、自分は何者かという問いを24時間365日、否応なしに突きつけられる。そこで、その人間が試される。国際交渉の類は何度も経験したが、最後はテクニックではない。相手を人間として信用し、尊敬できるかが決め手となることが多かった。その際に必要なのは相手の伝統や文化を尊重すること、そして、自らの伝統や文化と言えるものを相手が理解してくれる形で示すことができるかどうかである。ここまでくれば落としどころは自然に見つかるし、交渉の出口も見える。
* *
伝統や文化に自ら「偉大な(great)」という形容詞を付けるかどうかはともかく、日本に確立した伝統や文化が存在すると各国が理解しているとすれば、食料や農業分野においても、そこは同じです。それでこそ、意味があるということになるのではないでしょうか。
注1)https://www.mofa.go.jp/files/000165388.pdf
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(150)-改正食料・農業・農村基本法(36)-2025年7月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(67)【防除学習帖】第306回2025年7月12日
-
農薬の正しい使い方(40)【今さら聞けない営農情報】第306回2025年7月12日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 茨城県2025年7月11日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月11日
-
【注意報】果樹に大型カメムシ類 果実被害多発のおそれ 北海道2025年7月11日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月11日
-
【注意報】おうとう褐色せん孔病 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】出会いの大切さ確信 共済事業部門・全国共済農協連静岡県本部会長 鈴木政成氏2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】農協運動 LAが原点 共済事業部門・千葉県・山武郡市農協常務 鈴木憲氏2025年7月11日
-
政府備蓄米 全農の出荷済数量 80%2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA加賀(石川) 道田肇氏(6/21就任) ふるさとの食と農を守る2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA新みやぎ(宮城) 小野寺克己氏(6/27就任) 米価急落防ぐのは国の責任2025年7月11日
-
(443)矛盾撞着:ローカル食材のグローバル・ブランディング【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月11日
-
【2025国際協同組合年】協同組合の父 賀川豊彦とSDGs 連続シンポ第4回第二部2025年7月11日
-
米で5年間の事前契約を導入したJA常総ひかり 令和7年産米の10%強、集荷も前年比10%増に JA全農が視察会2025年7月11日
-
旬の味求め メロン直売所大盛況 JA鶴岡2025年7月11日
-
腐植酸苦土肥料「アヅミン」、JAタウンで家庭菜園向け小袋サイズを販売開始 デンカ2025年7月11日
-
農業・漁業の人手不足解消へ 夏休み「一次産業 おてつたび特集」開始2025年7月11日
-
政府備蓄米 全国のホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」で12日から販売開始2025年7月11日