ニセの資源管理論と真の資源管理【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年6月24日
ニセの水産資源管理論を振りかざす人達は、本当は資源管理しようとしているのでなく、漁獲量減少の原因を沿岸漁業者に転嫁し、海と魚を独占して自らの儲けだけを増やそうと考えているように思われる。
漁獲量の減少は、大型資本漁業による「乱獲」、行き過ぎた貿易自由化、大規模小売業を頂点とする流通業界の買い叩きが主因である。沿岸漁業者は、「もやい操業」(共同で漁獲して利益は分配する)に象徴されるように、古くから柔軟性もある共同体的な自主的な努力量管理の仕組みで資源管理にしっかり取り組んでいる。その見事さは、それこそが最先端だと欧米がむしろ注目している。「乱獲」の責任は、その努力の範囲外で活動する大型資本漁業にある。
それなのに、共同体的な自主的な資源管理を成功させている人々に「乱獲」の汚名を着せて漁獲枠を取り上げて、乱獲の責任を取るべき大型資本漁業を逆にさらに儲けさせる改革を行うことの理不尽さが厳しく問われるべきである。日本だけが乱獲で衰退したから、欧米型の規制を入れるべき、という説明を鵜呑みにしたら、漁船ごとの個別割当が売買可能となり、かつトン数制限撤廃で大手企業の独占が進み、沿岸漁民が職を失うか、『蟹工船』みたいな世界になりかねない。
個別割当は、それを売買可能にして集積しようとする人達には都合がよい。しかし、現実の資源量・漁獲量の変化は環境要因などが大きく親子関係だけで説明できないので、親子関係に基づく理論ではじき出した数値を用いて個別割当で縛ってもコントロールできない。本当は、柔軟に調整できる共同体的管理こそが有効なのである。
すでに、クロマグロのTAC(漁獲可能量)の配分は大型巻き網(4500t)に甘く、沿岸漁業者(2000t)の2倍以上も付与している。北海道では、違反があったとして6年も沿岸漁業者の枠をゼロにして、大型巻き網は不問のままというのは、大型巻き網による乱獲の責任を小規模漁業者に取らせたことになる。枠が大企業有利に運用されている。
沿岸の漁業権についても同様である。貿易自由化と買い叩きが大きな原因なのに、既存の漁家が非効率なせいで日本漁業が衰退したとして、漁家の生存権・財産権を没収して洋上風力発電や大規模養殖する漁業法改定は、林業改革と同様に内閣法制局が憲法に抵触すると懸念を表明しても断行された。これは、「私的利益のために補償なし」で財産権を没収することを可能にしており、「公共目的のために補償する」の強制収用より悪質である。
「成長産業化」の名目で、ゲノム編集魚を投入した大規模養殖も目指されている。ゲノム編集魚の資源・環境へのリスクについて問われた研究者兼社長は「ゲノム編集魚は早く死ぬから大丈夫だ」と答えたという。大丈夫ではない。
しかも、大型資本漁業が根こそぎ獲った魚が養殖のエサになっている。「乱獲」で資源を減らしている張本人が、天然資源が減ったから養殖だと言って、自らも大規模養殖を拡大し、根こそぎ獲った魚をエサとして食べさせている。なんという破滅的なサイクルであろうか。
「常に海と相談し漁獲のあり方を見直すことができる漁師と、それを支持し、買い支える消費者がいること」(権田幸祐・宗像漁協理事)という言葉に凝縮された努力を、さらに発信して広げていくことが不可欠である。漁師は漁獲を調整して資源管理し、価格も維持しようとしているが、流通業界が買い叩いたら、努力は水泡に帰す。いくら努力しても漁家の所得も上がらない。これでは持続できない。このことを流通・小売業界、消費者は考えてほしい。
日本漁業の後進性を示そうとするデータを意図的に提供し、いま頑張っている漁家を非効率として、漁業権の企業への開放や漁獲割当を導入し、売買可能にして、最後は自分が権利と資源を根こそぎ独占しようとする人達の意図を見抜かなくてはならない。「海はみんなのもの」と主張して、実は「オレのもの」にしようとしている人達に我々が負けてはならない。
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