TPPに再参加を! 上院議会幹部が超党派で【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2021年7月1日
アメリカで起きていること、これから起きようとしていることは、日本にも大きな影響をおよぼします。それは農業も例外ではありませんが、金融経済や外交問題などに比べて、日本で報道されることは極めて少なく、しかも必ずしも正確な情報とはいえないことが多々あります。そこでJA全中農政部のワシントン駐在員である伊澤岳氏に、アメリカで起きている農業関連問題について、毎月1日にレポートしていただくことにしました。
第1回は、TPPに関する上院議会幹部の動向です。
6月13日付のワシントンポスト紙に『米国はTPPでの失敗から学び、再度交渉に戻るべきである(原題:The U.S. needs to learn from its TPP mistake ? and get its seat back at the table)』と題された意見記事が掲載された。この意見記事は米国議会上院財政委員会国際貿易・関税・国際競争力小委員会委員長のカーパー議員(民主党・デラウェア州)と同委員会筆頭理事(少数党トップ)のコーニン議員(共和党・テキサス州)による共著で発表された。
議会幹部は中国対策の観点から米国のTPP再参加を主張
記事の概要は次の通りである。
・中国はCPTPPへの参加を模索しているが、TPPはもともとアジア太平洋地域で経済的・地政学的な支配力を高める中国に対抗するための協定だ。
・もし米国がTPPに参加していたら、急成長する市場において関税が撤廃され、米国の製造業や農業に大きな変化をもたらす可能性があった。
・どんな貿易協定にも妥協はつきものであり、TPPもその例外ではなかった。しかしそもそもルールを作るためには席につく必要があるのに、現在の米国は廊下に立っている状況だ。
・前政権は2017年にTPPからの離脱を決定したが、この動きは経済的な不確実性をもたらし、米国の信頼性を損ない、経済的競争の激しいアジア太平洋地域を中国に譲り渡すこととなった。中国は間違いなくこのことを喜んだ。
・中国は、日本やマレーシアなどTPP参加国が含まれるRCEP(地域的な包括的経済連携)の設立を主導するなど、米国のリーダーシップ不在の恩恵を受けている。
・新政権が誕生した今、タイ米国通商代表部(USTR)代表のもと、アジア太平洋地域の同盟国との関係を再構築し、多国間の貿易パートナーシップを構築すべきである。このことにより、中国の野心に対抗し、公正性や透明性の原則に基づく、ルールベースの貿易体制を推進することが出来る。
・理想は、米国がTPPに再参加の交渉をすることだ。これにより雇用や地域への影響力を増加させることが出来る。
・もし中国に先を越された場合は、太平洋の両サイドで環境や労働基準が低下することは間違いない。
上記のような主張がなされるのは、今回の意見記事が初めてというわけではない。少なくとも、バイデン政権発足後に開催された米国議会の貿易政策に関する公聴会で民主党・共和党両党の議員らは上記とほぼ同様の意見を表明してきている。
米国貿易専門家の受け止めは
ワシントンポスト紙に寄せられたこの意見記事の内容自体は目新しいものでは無い。であるとすれば、今回の行動にはどのような政治的意味があるのだろうか。
これについて、米国の貿易専門家は筆者に以下のような解説をしてくれた。
・著者の2名の議員は米国上院の貿易政策に関する幹部であり、その意見書の意義は大きい。
・現在の米国政治は過度に党派的な状況であり、超党派で意見が一致しているという点は注目に値する。
・記事からも明らかなように、中国に対する競争力強化のために議会がとった行動、という大きな文脈でとらえる必要がある。このような中国に対抗するための行動は、超党派の議員だけでなく市民からも広く支持が得られる状況にある。
・貿易は民主党にとって関心の高いテーマではなかったが、幹部が声を上げ続け、TPPへの注目を高めたことも重要である。こうした行動により、政権・USTRに影響を与えることが出来る。
・現在の環境は、中国脅威論やCPTPPの存在など、米国がTPPを離脱した2017年当時とは様々な点で違いがある。
大統領に交渉権限を与える貿易促進権限(TPA)が6月末に期限切れを迎えるなか、その見直しにあたって、今後の貿易交渉について政権・議会でどのような議論がされるか注目に値する。
議会の勢力が拮抗し、来年秋には中間選挙も控えるなか、超党派から理解を得られる政治課題についてバイデン政権がどのような行動を起こすか注目が必要である。
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【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】
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