懸念されるデジタル農業の行方【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年7月22日
ビルゲイツ氏らが描くような、農家がいなくなり、ドローンが飛び交い、センサーが張り巡らされ、自動化されたデジタル農業で「種から消費まで」の利益が最適計算され、巨大投資家が利益をむさぼるような世界は絵空事ではなく、現実味を帯びてきている。「みどりの食料システム戦略」が、農水省の意図を超えて、そのような流れに組み込まれていくことを回避したい。
「みどりの食料システム戦略」をめぐっては、イノベーション、AI、スマート技術などの用語が並び、「高齢化、人手不足だから、AIで解決する」と言う方向性は、人がいなくなって企業的経営がぽつんと残り、コミュニティは崩壊し、「多様な農家が共存してコミュニティが持続できる姿」が見えてこないようにも見える。
こうした流れは、中小経営や半農半Xも含む多様な経営体が地域農業とコミュニティを支えることを再確認した、2020年の食料・農業・農村基本計画と相反するように思われる。しかし、「みどり戦略」の策定は、新基本計画に多様な経営体の重要性を復活させた人達が中心になって行われたことは確かで、「大規模化のための技術でなく、篤農家でなくても誰でも農業ができる技術を普及することで、農業や有機農業のすそ野を広げ、農村に人を呼び込めるようにしたい」という意図が表明されている。
一方で、バイオ企業などはスマート農業技術も含めて、農業生産工程全体をトータルに包含したビジネスを展開しつつある。現にモンサント(2018年にバイエルと合併)は化学肥料市場に遺伝子組み換え作物をセットにするビジネス展開で急成長し、さらに、2013年に新たな戦略として、農業プラットフォームサービスのClimate Corporationを買収した。
中村祐介氏によれば、その戦略とは自社を食料供給のソリューション提供企業へと変えることである。Climateを通じて、これまで同じ業界でも異なる業種であった農業機器の製造・販売大手のAGCOとデータの相互接続をしたり、農機具メーカーのJohn Deerのオペレーションセンターと相互接続をしたりといった組み合わせが次々と起きていった。この組み合わせから、農地の肥沃度管理や区画ごとの収量分析、地域の気象データ確認などの作業を一つのプラットフォーム上で行うことができるデジタル農業技術ソリューションを提供する。
様々な人や国、企業がモンサント・Climateと相互接続し、価値を高めていく中で、農業生産者はますますClimateを利用することになる。そしてClimateの利用が促進すれば、そこに集まるデータを基にモンサントや他の企業はユーザーに満足度の高いサービスや製品を提供していける。つまり、大きな円を描くエコシステムが生まれる
(中村祐介「デジタル革命(DX)が農業のビジネスモデルさえ変えていく」2020.2.20 https://www.sapjp.com/blog/archives/28117)。
モンサントが買収したClimateは人工衛星でリアルタイムモニターをアプリで行って、使うべき農薬や化学肥料、種苗までが提案されると宣伝している(印鑰智哉氏)。
ここに、GAFAなどのIT大手企業も加わって、最終的には、このYoutube動画の1シーンのように、農家は追い出され、ドローンやセンサーで管理・制御されたデジタル農業で、種から消費までの儲けを最大化するビジネスモデルが構築され、それに巨大投資家が投資する姿も見えてくる。現に、2021年9月に開催予定の国連食料システムサミットは、ビルゲイツ氏らが主導して、こうした農業を推進する一環としようとしているとの見方もある。実際、ビルゲイツ氏は米国最大の農場所有者になり、マクドナルドの食材もビルゲイツ氏の農場が供給しているとのニュースが最近も米国で放送された(NBCニュース、2021年6月9日)。
「みどり戦略」が農水省の意図を超えて、ビルゲイツ氏らが描くような、農家がいなくなり、デジタル農業で投資家が利益をむさぼるような世界に組み込まれていくことがあってはならない。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(150)-改正食料・農業・農村基本法(36)-2025年7月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(67)【防除学習帖】第306回2025年7月12日
-
農薬の正しい使い方(40)【今さら聞けない営農情報】第306回2025年7月12日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 茨城県2025年7月11日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月11日
-
【注意報】果樹に大型カメムシ類 果実被害多発のおそれ 北海道2025年7月11日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月11日
-
【注意報】おうとう褐色せん孔病 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】出会いの大切さ確信 共済事業部門・全国共済農協連静岡県本部会長 鈴木政成氏2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】農協運動 LAが原点 共済事業部門・千葉県・山武郡市農協常務 鈴木憲氏2025年7月11日
-
政府備蓄米 全農の出荷済数量 80%2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA加賀(石川) 道田肇氏(6/21就任) ふるさとの食と農を守る2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA新みやぎ(宮城) 小野寺克己氏(6/27就任) 米価急落防ぐのは国の責任2025年7月11日
-
(443)矛盾撞着:ローカル食材のグローバル・ブランディング【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月11日
-
【2025国際協同組合年】協同組合の父 賀川豊彦とSDGs 連続シンポ第4回第二部2025年7月11日
-
米で5年間の事前契約を導入したJA常総ひかり 令和7年産米の10%強、集荷も前年比10%増に JA全農が視察会2025年7月11日
-
旬の味求め メロン直売所大盛況 JA鶴岡2025年7月11日
-
腐植酸苦土肥料「アヅミン」、JAタウンで家庭菜園向け小袋サイズを販売開始 デンカ2025年7月11日
-
農業・漁業の人手不足解消へ 夏休み「一次産業 おてつたび特集」開始2025年7月11日
-
政府備蓄米 全国のホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」で12日から販売開始2025年7月11日