概算金価格で揺れ動く新米相場と業者心理【熊野孝文・米マーケット情報】2021年9月14日
この時期、各産地の農協系統の概算金価格の情報収集が活発に行われる。今年もその例にもれなかったが、3年産は大幅下げを打ち出す産地が多く、生産者のみならず、商系集荷業者サイドからも嘆息交じりの驚きの声が多く聞かれた。一気に3000円も4000円も引き下げられたのでは今後の稲作経営を危ぶむ声が出るのも止むを得ないが、農水省内部からもそうした声が出ている。
先週までに主要産地の農協系統の3年産概算金が出揃った。先週、もっとも波紋が大きかったのが8日に決定した全農青森県本部の概算金で、NHKでも取り上げられたためか、大幅下げの背景と今後のことについて生産者のみならず、集荷業者、流通業者などからも問い合わせがあったので、状況を取材してみた。
全農青森県本部は8日、農協会館で開催した組合長会議で3年産概算金として主力品種の「つがるロマン」を60キロ当たり8200円、「まっしぐら」を8000円と前年産に比べ3400円値下げする額を示した。
この決定はNHKにも取り上げられ、地元の生産者ばかりか他県の生産者からもあまりに大幅な値下げであったことから不安視する声が上がるなど波紋が広がった。
全農青森県本部米穀部は、3年産概算金の大幅下げを通知した理由について二つ上げている。一つは2年産米の持越在庫が多いこと。農水省のマンスリーリポートの最新号では、7月末現在の2年産米の販売進度は昨年同月に比べ、「まっしぐら」が79%、「つがるロマン」が74%に留まっており、他県の主要銘柄の販売進度に比べ遅れが目立つ。米穀部では「農水省の発表データよりも我々(系統)の持越在庫比率は高まる」としており、円滑化対策に繰り入れた数量も上積みされているという。この分の2年産米を販売して行くには値下げが必要で、結果的に複数年共計で差額分の赤字を補填しなければならない。もう一つの理由は、先行して出回り始めた関東産新米の市中相場が安値に落ち込んでおり、これらと競合する青森県産米の販売を推進するためにも価格を引き下げざるを得ないという判断。
実際、既に仲間取引で商系集荷業者から3年産「まっしぐら」1等が9月20日以降渡し条件で東京着9300円の売り物が出ている。県本部ではこうした情報も把握しており、3年産米の販売環境は極めて厳しいと認識している。
青森県内の商人系集荷業者は全農青森県本部よりさらに厳しい見方をしている。それは系統の概算金では、全農栃木が青森よりも大幅な下げを提示したように「自県産のコメを最優先して販売するという動きが顕著になった」ことにある。全農系統のコメは県本部が全国本部に委託販売する形式になっているが、市場実勢を顧みなかった産地ほど2年産米在庫を抱えることになり、その負担は自県の共計赤字になっていることから、3年産から自県産の早期販売が最優先課題と位置付けなくてはならず、全農のコントロールが効かなくなったことを意味する。このため販売優先のための下げが加速すると見ている。
産地ごとの農協系統の概算金が違うことについて、最もわかりやすい例は全農栃木と全農茨城の「コシヒカリ」の概算金で、全農栃木が前年産より3400円値下げして9000円にしたのに対して全農茨城は2300円値下げの10200円に設定した。概算金がそのまま販売価格になるわけではないが、茨城県の商系業者は「茨城は栃木より1200円高い。この差額が販売に影響するのではないか」と懸念している。
市中で取引される両県の「コシヒカリ」の価格はほとんど差がない。それが1200円もの格差が生じた場合、販売に影響が出るのは当然で、茨城県の業者が懸念するのは当然と言える。
概算金の設定額を懸念する声は別サイドからも上がっている。それは他でもない農水省である。その声とは「せっかく生産者が頑張って3年産米を主食用から転換したのになぜ農協系統はこれほどまでに値下げするのか」と言うもの。筋違い角のような見方にも聞こえるが、農水省にも言い分はある。なにせ円滑化対策ではかつて実施したことがない33万㌧もの2年産を11月以降販売するために保管料等を助成するという支援を行い、4年産でも水田リノベーションを継続すべく予算要求しているのだから、これ以上何をしろという言い分なのだろう。そこで切り返すように出てくるのが「需要に見合った生産」という呪文のような文言。需要に見合った生産が出来ないのはなぜなのか?食糧の安定を謳いながら一気にこれほどまで価格が下がるのはなぜなのか? 根本から問い直すことが先決ではないのかと思うのだが。
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