(249)後期開始直前の大学から【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年9月17日
少し前まで日本の大学は10月から後期が始まっていました。最近は、9月の中下旬から始まるところが多くなっています。前期・後期通しで同一科目30回の講義を受けていた時代から見ると隔世の感がありますが、夏季休暇中にも様々な行事が続きます。少し、筆者の最近の動向をご紹介します。
全国の農学部系大学には大学附属農場がある。附属農場を持つ大学が加盟している全国レベルの組織に全国大学附属農場協議会(会長:長尾慶和教授宇都宮大学)というものがあり、9月14日にその秋季大会が開催された。
今年の担当大学は静岡大学である。時節柄、オンライン開催だったが、全国の農場関係者(教員・技術員)が集い、様々な意見交換が行われた。農場教育は実習が中心のため、昨今の情勢下では各大学が様々な工夫を凝らしている。感染隔離対策や遠隔対応、さらに先端技術の活用など、今後、益々検討が必要な内容が共有された。
将来的に日本全体で18歳人口が減少する中で、農学系大学に限らず大学間では受験生の獲得競争が着実に進展するだろうが、地域や内容が異なる同系の大学間では様々な協力、知見の共有が可能であり、それが農場実習そのものの質の向上を支えている。
筆者個人としては、今年は是非とも静岡へ行き、静岡大学農場が見事に作り上げたお茶を中心とした実習の仕組みを学ばせてもらい、帰りに焼津あたりで美味しい魚を味わってきたいと考えていたが、それは将来の楽しみに留保しておきたいと思う。
翌、9月15日には日本畜産学会が東北大学の主催で開催された。こちらも全面オンラインである。日本畜産学会は基本的に畜産学に関する自然科学系の学会だが、今年は、4つの同時進行(パラレル)シンポジウムの中の1つで話をすることとなった。社会科学系の研究者や実務家が登壇することは珍しい。筆者の同僚でもある座長の須田義人教授と大会関係者のご英断に深く感謝したい。
そのシンポジウムで筆者は「畜産物の国際需給と畜産の近未来」と題する簡単な講演を実施したが、ここでは同時に登壇した御2人を紹介しておきたい。
1人目は、羽田仁一氏である。羽田氏はJA全農北日本くみあい飼料株式会社の社長であり、北の畜産だけでなく南の畜産にも深い経験を持っている。「東北の畜産の現状と将来」と題した羽田氏の講演を聞き、実業の第一線で活躍されている方の深い洞察と示唆に富んだコメントが印象的であった。
2人目は、このコラムの第237回(パキスタンとの国際「食肉技術」交流)でもご紹介した(公社)全国食肉学校の小原和仁氏である。大学卒業以来、一貫して食肉畑を歩み、日本だけでなく、海外での経験も豊富な小原氏の「国内外食肉業界の人材育成」という講演から、シンポジウムの参加者はいくつもの貴重な視点と可能性を得られたのではないかと思う。
こうして御2人と一緒に報告の機会を持てたことにより、何よりも実業界の経験、さらに畜産の将来を担う人材育成の現場、この両者の知見を共有できたことがうれしい。
研究の世界は、どうしてもミクロの世界に焦点を合わせる傾向が出てしまう。今では多くの研究者が細胞の中の、そのまた個別要素のさらにその中まで入り込んで研究をしている。これは畜産に限らず、どの分野も同じだが、時々、意識的に視るポイントを後退させ、少し離れたところから俯瞰(ふかん)すると、悩んでいた課題が意外に思わぬところから解決する。現場では当たり前のことが、研究室の中ではわからなかったりすることが筆者にもよくある。
9月16日、こちらは筆者の勤務先大学の話だが、大学院生の中間発表会が開催された。発表を控えた大学院生には夏休みも準備期間だけ短くなる。学部(群)の新入生と異なり、院生はいわば社会人1年生、新入社員の初めての社内報告のようなものだ。顔つきも少し変わってきたようだし、ここから先が本当に鍛えられる段階である。さらに一段上を目指し、よい結果を期待したい。
* *
恐らく、多くの大学では今後1~2週間のうちに後期が始まります。コロナ2年目の秋、感染対策を万全にして、何とか無事に乗り切り、農業と食料、そして農協をめぐる状況がより良くなることを望んでいます。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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