(252)「代替」ブームの寿命【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年10月8日
世の中である事柄がブームになるときには、誰かが仕掛けるのでしょうが、それが拡大していく様は、興味深いですね。少し気になったブームを一つ二つ。
1960~70年代にかけて、米国では火力発電所から排出される窒素酸化物や硫黄酸化物が社会的にも様々な問題を引き起こしていた。今では環境問題と総称される「公害」のひとつ「大気汚染」である。
その対応策として様々なことが試みられた。最初は、一律に排出規制のようなことが考えられた。ところが古い設備と新しい設備では汚染物質の排出量が異なるため、一律の排出規制ではうまく機能しない。新しい設備を持っているところは規制値を大幅に下回り、古い設備のところは規制値を上回る...ということになる。
そこで考えられたのが、新規設備投資をして規制値を下回った排出量の部分を取引可能なものとし、規制値を上回って悩む古い施設の所有者に売却するという仕組みである。さらに、対象地域を設け、その地域全体の排出量を縮小される形で規制し、その中で自由に取引をさせるような形が考えられた。この取引のことは英語でemissions tradingというが、当時の日本では排出権取引と呼ばれた。
ところが、ここに「権利」の「権」が付いたために、日本では別の議論が生じてしまう。環境を汚染する「権利」などとんでもないという訳だ。したがって、現在では排出量取引という単語になっている。筆者が大昔、少しだけ研究していた頃の話である。
日本では余り認知されなかった、この取引の仕組みは後にヨーロッパがこれを二酸化炭素に適用し、京都議定書にも定められた結果、米国内の小さなマーケットから国家間の二酸化炭素排出量取引へと昇格した。ある時期の書店にはこの関連の書籍がかなり並んでいた気がする。最近はこの話からは大分離れている。
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話は変わるが、日本人はかなり昔から大豆のことを「畑の肉」として重宝してきた。「味噌」「醤油」「豆腐」「納豆」「湯葉」...大豆から作られた日本独自の食品は多く、我々の生活に深く結びついている。
ところが米国では大豆は基本的に搾油原料である。搾油のことをクラッシング(crushing)というが、まさに大豆をつぶして油を採る。そして、その残り粕が大豆粕と呼ばれる。大豆、大豆油、大豆粕は通称「大豆3品」と呼ばれており、シカゴの穀物取引所にも先物が上場されている。何を言いたいかというと、米国人にとって基本的に大豆は「搾油原料」と「飼料」であるという事だ。
ここ1~2年、急速に大豆を原料とした「代替肉」が注目を浴びているが、その理由は長年大豆や大豆加工食品を食べてきた日本人からすると少し戸惑うかもしれない。多くの人は、少しオシャレな、ヘルシーさがある「代替肉」に目が向くかもしれないが、これはそもそも肉食民族で大豆を基本的にはほとんど食べない人達が仕掛けてきたブームという側面があることも理解しておいた方が良い。
もちろん、その背景には将来の食料不足、そしてタンパク質確保への漠然たる不安があるだけでなく、個人ベースでは健康指向、あるいは従来型畜産に対する持続可能性や環境問題、動物愛護などいろいろな考えがあるであろう。
「味噌」や「醤油」だけでなく既に「大豆ハンバーグ」ですら何十年も食べてきた身としては、装いも新たに「代替肉」として各種大豆食品がさまざまな食品メーカーから提供されることを一消費者としては喜びつつ、またも海外から仕掛けられた感を強くする次第である。どこかデジャヴ―感を拭いきれない。
恐らく、現実には既に「代替肉」は「代替食」や「代替食品」へとその対象を拡大・変化する中で、「代替野菜」や「代替魚」、あるいは「代替果実」などと名前を変えて、新商品のマーケティング合戦が展開されているものと思われる。それが続けばいずれ素材だけでなく、寿司やてんぷらも「代替寿司」や「代替てんぷら」となり、「代替〇〇」が暫く継続するであろう様相が何となく目に見えるところが年の功か。
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今回の「代替」ブーム、いつまで続くのか興味深いものがあります。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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