【浅野純次・読書の楽しみ】第67回2021年10月16日
◎森功 『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』(文藝春秋、1815円)
新内閣が発足したからといって、安倍・菅政権のことはもうどうでもいいとはなりません。どころか新政権は両政権の徹底した総括の上に舵取りすることが求められています。
本書は近年、進められた官邸官僚政治の弊害が綿密な取材によって描かれますが、臨場感たっぷりの描写は著者ならでは。憶測でなく、政権にごく近いところにいる人たちの証言に多くを拠っているからでしょう。
とくに安倍政権での今井尚哉、菅政権の和泉洋人両補佐官、両政権での杉田和博官房副長官の3氏が強権を振るうさまは本書の白眉です。ほかにも固有名詞の多さは抜群で、官邸官僚たちが首相に信頼され全権を委ねられて時に首相そっちのけで豪腕を発揮する一部始終は興味津々です。
問題は、本来は官僚の知恵と経験を生かす政治を目ざすべきところ、官僚人事権を官邸が一手に握った結果としての強権政治の弊害が生じたことでした。
だから本書は過去の政権の物語ではないはずです。説明責任がまったく果たされなかったことは最大の問題点ですが、短期の菅政権に限っても長男、次兄、そしてスポンサー企業まで、利権政治のひどさは目を覆うばかり。とても読みやすいし、政治を考えるにも大いに役に立つでしょう。
◎ジャン・アンリ・ファーブル 『虫と自然を愛するファーブルの言葉』(興陽館、1650円)
詩人でフランス文学者の平野威馬雄氏が昭和17年にファーブルの文章を一冊の本にまとめたものを、底本から半分ほどを収録して80年ぶりに復刻したのが本書です。
田畑や林、庭の一隅に生息する虫、鳥、植物などに愛情のこもった観察を行い記録したファーブルの文章は、巧まざるユーモアも交えて楽しく読み進むことができます。
夏祭りの喧騒の中でひたすら「機織り」をする蜘蛛のこと、空高く鳴くひばりに負けじと音楽を奏でるコオロギのこと、プロヴァンスにやってくる渡り鳥のこと、興趣は尽きませんが、一方でファーブルが代数学や幾何学に優れた感性をもっていたことを知って少々びっくりしました。
そして何よりも懐旧の章がいい。92歳まで生きたファーブルが昔の村や昆虫観察などに思いを馳せる文章は20ページほどですが、余情にあふれ、わたし自身も昔の思い出にしばし浸りました。あと、独学者たちに「前へ進め!」と励ます章も(ファーブル自身が独学)とても良かった。
◎齋藤孝 『常識として知っておきたい日本語ノート』(青春新書、990円)
日本語の乱れがひどくなってきました。間違った漢字、熟語、読み方、用法。あまりに多くの人に多用されると、そちらがいつの間にか正しいことになってしまうのだとか。
で、齋藤センセイのこの一冊に挑戦されてみては? 「ゴミの散乱を見て眉をしかめた」「彼女は誰にでも愛想をふりまく」「結果を出して汚名を晴らした」「櫛の歯が抜けた商店街」・・正しいですか。
では「間髪」「更迭」「播種」「妄執」「忸怩」「工面」「遂行」「凡例」。何と読みますか。
では次の文は正しいでしょうか。「先輩の努力を他山の石としてがんばります」「老体に鞭打って農作業しています」「もはやこれまで。矢折れ刀尽きた」。
答えは本書で、と言っては少々、冷たいのでヒントを。しかめるのは顔で、眉は。振りまくのは愛想でなく。汚名はそそぐ、返上する。櫛の歯は抜けるのではなくて。あとはご家族で話し合ってください。楽しみながら勉強できるはずです。
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