コシヒカリより「美味しい」というブランド米の成約価格【熊野孝文・米マーケット情報】2021年11月16日
緊急事態宣言解除で久しぶりにリアルな会場で集荷業者やコメ卸等が参集した席上取引会が先週開催された。リアルな会場では、取引をしながら参加者同士で様々なやり取りが行われるので、そのやりとりを聞いているだけでコメの市場動向の一端がうかがい知れる。その日に行われた取引の最中に売り手の一人が新しくデビューした産地のブランド米を売りに出した時「コシヒカリよりおいしい」と言ったのだが、成約した価格はコシヒカリより500円安かった。
各産地でデビューしている新品種のCMが賑々(にぎにぎ)しく流されている。コメ卸や米穀小売店の中にはそうした新品種がどのような特徴があるのかを紹介しているところもあるほか産地では県の協力を得て生産販売促進協議会が自県産の新品種がどこで販売されているか全国マップで販売店を紹介しているところもある。お披露目式では知事と著名なタレントがセットで登場するのが定番になっている。
お披露目式でデビューする新品種の販売価格が明示されることはないが、新之助がデビューした時は、当時の知事が「魚沼コシヒカリの有機米並みの価格」と言っていた。東北の産地のお披露目式で、会場で販売価格について質問したところ「1キロ800円」と答えた産地もあった。産地としては自県で育種目標を策定して長い時間と労力を費やして開発した新品種なのでそれをフラッグシップにして自県産米の底上げにつなげたいという思惑は分かるのだが、デビュー後その新品種がどう市場で評価されているのかという報告書にはお目にかかったことがない。
PRに多額の税金を使っているのだから費用対効果ぐらいは示してもよさそうなものだがそうした事例はない。
たまに量販店に置かれていた新品種の販売価格を見るとコシヒカリより安く販売されているものもあるほか中食業者には破格の安値で納入されているものもある。安値でも販売されるのはまだ良い方で、中には売れ残ったブランド米を無償で提供している産地もある。
大手広告代理店を使って著名なタレントを活用すれば新品種が高値で売れるというのは幻想でしかない。
新品種をブランド米に仕立てたいというのは民間業者でも同じで、地道な努力を積み重ねている。岐阜県でデビューした新品種は偶然水田で見つかったもので育種されたものではないが、特異な形質と稲体であったことから発見者自らが作付面積を拡大、自ら販売も行うようになった。4、5年前に東京の高級スーパーでコメ売り場に立ってそのコメを販売しているときに代表者に話を聞く機会があった。その時販売されていたコメは、その品種を有機栽培したものであったが、あまりの高値に正直売れるとは思えなかった。ただ、売り場に立っていた代表者は「食べてもらえさえすれば違いが分かる」と自信満々であったことはよく覚えている。現在、この新品種は東京の複数の大手百貨店や高級食品スーパーに置かれるようになった。先月には通年販売するための低温倉庫を建て、精米ラインを増設した。東京で販促活動をしないのか聞いたことろ「3年産は完売で販促活動をやりたくても出来ない」という返事が返って来た。
自ら販路を築くことに力を入れている生産者の中には都内に店舗をオープンした生産者さえいる。オープンして1年半になるが、直近の売上は対前年比140%から多い月は190%にもなっている。店舗の告知方法としてネット上で大収穫祭を開催するほど米穀店顔負けの様々な販促手法を取り入れている。商品の中には有機米をもみすりして直ぐに真空パックして袋詰めした玄米もある。
中食や外食企業の顧問をしている人から以下のようなメールが送られて来た。「二宮尊徳が、小田原藩主・大久保忠真の命を受けて桜町の復興に当たる時、忠真は、補助金を出そうとしますが、それに対して尊徳は、断った話は有名です。
『仁術さえ施せば、この貧しい村人たちに平穏で豊かな暮らしを取り戻せれるはずです。補助金の支給や年貢の免除は、苦しんでいる人々を救うのに何の役にも立ちません。それどころか、救済するカギの一つは、金銭支援を一切やめることにあります。この様な支援は、強欲や怠惰を引き起こすばかりで、村人の間に不和をもたらす種です。荒地は荒れ地そのものの地力で開くもの、貧困はそれ自体がそこから抜け出せるようにできているものです』
今のコメ農家は、政府の補助金頼りで、消費者に高いコメを販売し続けた結果、コメ離れになりました。もちろん、全部の農家ではありません。この難局を打ち破る農家さんがまだまだたくさんいらっしゃいますので、一緒になって、販売して行きたいです」
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