田園都市は大平元首相に学べ デジタル偏重は本末転倒【記者 透視眼】2021年11月17日
「デジタル田園都市国家構想」は岸田文雄首相の目玉施策の一つ。具体的な検討が始まったが、単なる政治スローガンにしてはならない。元祖・田園都市構想の元首相・大平正芳に学ぶべきで、あくまで地方創生を主眼に据えたい。デジタル偏重は本末転倒とならないか。(敬称略)
■次々、「宏池会」岸田カラー
事実上、総選挙で勝利した岸田は次々、自身の政策を展開し始めた。その色合いは出身派閥の経済重視の「宏池会」の伝統と重なる。
半世紀前の派閥出身の2人の首相、池田勇人と大平正芳を意識した政策の命名も目立つ。池田の「所得倍増政策」と大平の「田園都市国家構想」だ。
池田は高度経済成長、人口増という幸運に恵まれ、倍増以上の成果を得た。だが、もう時代が違う。岸田の言う〈所得倍増〉は、2倍の意味ではなく〈成長と分配〉の勤労者給与への実分配の文脈で語られている。一方で、大平の「田園都市構想」は、そのまま適用はできないにしても、どう理解するかで今後の新たな発展の素地を見いだせる。
■農業振興との関連
問題は、岸田の「デジタル田園都市」が地方創生、農業振興とどう結び付くのかだ。地域振興の手段とするなら、当然、JAの役割が問われる。
11日のJA全中理事会後の定例会見で中家徹会長に「岸田版田園都市」をどう見るかを聞いてみた。中家は首相がたびたび繰り返す「農は国の基」に期待を示し、田園都市構想もその意味で今後の行方を注視したいと述べた。つまりは、具体的議論を見守るという様子見だ。
同日には第1回の同構想実現会議で岸田は「新しい資本主義実現に向けた最も重要な柱だ。デジタル技術の活用で地方を活性化し持続可能な経済社会を実現したい」とし、2021年内に政策の全体像をまとめるよう指示した。念頭には都市と地方の格差是正がある。
■メンバーに成長派と地方首長
この手の会議は構成メンバーを見れば、先行きの見当が付く。
地方活性化と言いながら、小泉政権や安倍政権で新自由主義的な構造改革の旗振り役を担い、菅政権でも政策会議に残った竹中平蔵が入った。これでは効率化ばかりが前面に出はしないか。限界市町村を挙げ「地方消滅」の未来図を示した増田寛也もメンバーだ。一方で、農業振興での地方創生を唱える平井伸治鳥取県知事(全国知事会会長)や地方自治体の首長も加わった。今回の田園都市構想を一刀両断的に構造改革派による看板倒れと断定するのは早計だろう。
いずれにしても、年末の政策全体像に向けて、地方実態などを把握する地方公聴会は必要だ。JAグループをはじめ地方基幹産業の農林水産関係者からの聴取は欠かせない。
■「地方の時代」先取り文人宰相構想
田園都市の元祖で文人宰相とも称された大平の構想、発想を見てみよう。大平「田園都市国家構想」は、ちょうど50年前の1971年に披露された考え。自民党総裁選出馬に向けた今後の国家ビジョンと位置づけた。実際に大平が首相となるのは7年後の1978年だ。
大平は、都市と農村の関係を対立ではなく一体でとらえた。中心の都市は就業機会を与え、周辺の農村はその都市を緑で囲み生鮮食品を提供する。人口にして20万~30万人程度。こういった共存型中規模都市を全国に作っていこうとした。単なる「田園都市」ではなくそこに〈国家〉を付けたのは、今後の新しい国家戦略だったからだ。その意味では盟友だった田中角栄の開発優先の「列島改造論」とは似て非なるものだ。その後の「地方の時代」を先取りした発想でもあった。大平はまた、全中会長を務めた同郷の宮脇朝男とは「水魚の交わり」とも言える同志愛で結ばれていた。
■大平政権の9政策研究会
今後の岸田政権を考える意味で、半世紀前の大平政権の9政策研究会を見たい。そこには大平の先見性が分かる。逆に言えば、果たして岸田にはそれがあるのかと首をかしげる。
◎大平9政策研究会
1田園都市構想、2対外経済政策研究、3多元化社会の生活関心、4環太平洋連帯、5家庭基盤充実、6総合安全保障、7文化の時代、8文化の時代の経済運営、9科学技術の史的展開
このうち、環太平洋連帯研究会は後の21の国と地域で構成するアジア太平洋経済協力会議(APEC)につながっていく。「地方の時代」に対応するのは、田園都市構想と家庭基盤充実だ。田園都市のトップには京都大で独自の文明史観を構想した梅棹忠夫が就いた。
■一極集中是正との整合性
岸田版田園都市構想は、大平のような国家観と文化の香りが感じられない。
むろん、5Gをはじめ最新デジタル技術の地方導入は欠かせない。そのための財政措置、新たな交付金創設も俎上(そじょう)に載せる。地方創生と農業振興、デジタル化でスマート農業加速化も大きな課題だ。議論が始まった新たな国土形成計画との整合性も課題だ。同計画はコロナ禍での地方移住に注目している。岸田構想が機能し地方活性化に結び付くのは、デジタル偏重ではなく、住民主導がカギを握る。デジタルは「手段」で「目的」ではない。
(K)
重要な記事
最新の記事
-
果樹産地消滅の恐れ 農家が20年で半減 担い手確保が急務 審議会で議論スタート2024年10月23日
-
【注意報】野菜、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米③ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米④ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
千葉県で高病原性鳥インフルエンザ 今シーズン国内2例目2024年10月23日
-
能登を救わずして地方創生なし 【小松泰信・地方の眼力】2024年10月23日
-
森から生まれた収益、森づくりに還元 J‐クレジット活用のリース、JA三井リース九州が第1号案件の契約交わす2024年10月23日
-
食品関連企業の海外展開に関するセミナー開催 関西発の取組を紹介 農水省2024年10月23日
-
ヒガシマル醤油「鍋つゆ」2本付き「はくさい鍋野菜セット」予約販売開始 JA全農兵庫2024年10月23日
-
JAタウン「サンゴ礁の島『喜界島』旅気分キャンペーン」開催2024年10月23日
-
明大菊池ゼミ・同志社大上田ゼミと合同でマーケ施策プロジェクト始動 マルトモ2024年10月23日
-
イネいもち病菌はポリアミンの産生を通じて放線菌の増殖を促進 東京理科大2024年10月23日
-
新米「あきたこまち」入り「なまはげ米袋」新発売 秋田県潟上市2024年10月23日
-
「持続可能な農泊モデル地域」創出へ 5つの農泊地域をモデル地域に選定 JTB総合研究所2024年10月23日
-
「BIOFACH JAPAN 2024」に出展 日本有機加工食品コンソーシアム2024年10月23日
-
廃棄摘果りんご100%使用「テキカカアップルソーダ」ホップテイスト新登場 もりやま園2024年10月23日
-
「温室効果ガス削減」「生物多様性保全」対応米に見える化ラベル表示開始 神明2024年10月23日
-
【人事異動】クボタ(11月1日付)2024年10月23日
-
店舗・宅配ともに前年超え 9月度供給高速報 日本生協連2024年10月23日
-
筑波大発スタートアップのエンドファイト シードラウンドで約1.5億円を資金調達2024年10月23日