【書評】「七転八倒 百姓記~地域を創るタスキ渡し~」(菅野芳秀著・現代書館)2021年12月14日
「堂々たる田舎」づくりへ挑戦 土地を、地域を未来へ、子孫へ
大学で、成田で、沖縄で、学生運動の嵐が吹き荒れた1970年代。社会の価値観が大きく変わるなかで、自分らしい生き方を求めて七転八倒した団塊の世代の男の一代記である。大きな時代の流れに抗(あらが)い、時には流されながら、みずから信じる道を走り続けている。
誰の人生にもいくつかの転機がある。それを主体的に乗り越えるか、流れに任せるかによってその人の将来が大きく変わる。著者は、山形県の長井市の自称「田舎」で、農家の後継者である生き方に自信が持てず、東京の大学に入る。ここで大きな転機を迎える。成田の農民たちの空港建設反対のたたかいである。
大学の授業にほとんど価値を見出せなかった著者は、自分と同じ「百姓」が、農地を守るため、子どもも老人も家族ぐるみでたたかっていることに大きな衝撃を受けた。傍観者でいることはできず、反対同盟の農民や学生ととも砦に籠る。逮捕、復学と苦悩しながら卒業。
そして卒業後訪れた沖縄。国家という大きな権力に対して、代々引き継いできた土地を、地域を未来に、子孫につなごうとする姿が成田でたたかう農民の姿に重なり、「田舎」への帰郷を決意させる。26歳の春だった。
そこには価値観の大きな転換があった。著書では「堂々たる田舎」の言葉が何度か出てくる。開き直りではない。負け惜しみでもない。成田や沖縄の土地を守る農民たちのたたかい、生き方のなかにこそ、本当の価値があるのだとの確信に裏付けされた「田舎」である。
しかし、簡単には受け入れてくれなかった。米の減反を拒否して〝村八分〟扱いされ、農村集落における連帯責任の枷(かせ)の強さを知らされる。この窮地を救ったのは生協だった。学生時代のツテで、米を通じて東京の生協と地元農協をつなぎ、今も続く組合員同士の交流につながった。
その中で「理」と「利」の重要さを知る。人は理論だけでは動かず、利益とのバランスが大事ということだ。「理」を「利」に転じると言ってもよい。農薬の空中散布中止も、有機農業の提案で切り抜けた。「難局には対案をもって参加する」。菅野さんの言葉である。
著者の提案した有機農業の取り組みは、生ごみの堆(たい)肥化による循環型農業(レインボープラン)、食料とエネルギーを地域で賄う「置賜自給圏構想」の取り組みに拡大し、一躍、長井市は全国の注目を集めるようになった。1989年、世界の農民を招いた「百姓国際交流会」をきっかけに、大国の覇権主義や大資本の横暴と戦う小規模農民の連帯が生まれている。社会を動かす運動とはどのようなものか、教えてくれる。
(農協協会参与 日野原信雄)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 山口県2024年4月24日
-
【JA人事】JAびらとり(北海道) 仲山浩組合長が再任2024年4月24日
-
【JA人事】JAいわみざわ(北海道) 引頭一宏組合長を再任2024年4月24日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」徳島県で阿波踊りを体験 JAタウン2024年4月24日
-
期間限定「牛乳が飲みたくなるあんぱん」新発売『ミルク大臣』寺田心の新CM公開2024年4月24日
-
「応援しよう能登!つながろうこども食堂!こどもの日イベント2024」開催 むすびえ2024年4月24日
-
米ぬか由来ナノ粒子の抗がん作用を確認 東京理科大学2024年4月24日
-
不要な「園芸用土」リサイクル回収の取組を強化 島忠2024年4月24日
-
淡路島で収穫体験「Awaji Nature Lab&Resort」27日から開催2024年4月24日
-
総供給高は7か月連続で前年超え 3月度供給高速報 日本生協連2024年4月24日
-
旬のフルーツ詰め合わせた「母の日ギフト」オンラインショップ「Seika」で販売2024年4月24日
-
各界トップランナーの講義を1冊に集約『北海道未来学』発売 コープさっぽろ2024年4月24日
-
温暖化に対応 パインアップル品質予測モデルを開発 農研機構2024年4月24日
-
3年連続で健康優良企業「銀」健康づくりの取り組みが評価 パルシステム2024年4月24日
-
「電子包材用シート」価格改定 5月7日出荷分から値上げ デンカ2024年4月24日
-
「世界獣医師会大会」2026年に日本開催が決定2024年4月24日
-
「コメリ(新)関西流通センター」開設へ 建設工事着工2024年4月24日
-
「EVトータルマネジメント」実現に向けた実証実験に参画 JA三井リース2024年4月24日
-
「CREAM SWEETS 宇治抹茶プリン」リニューアル発売 雪印メグミルク2024年4月24日
-
雪印メグミルク 社内向け対話型AI「YuMe*ChatAI」運用開始2024年4月24日