生乳5000トンが果たすべき役割【小松泰信・地方の眼力】2021年12月22日
今日(22日)は一年で最も昼が短い冬至。今日を境に昼が長くなる。しかし、われわれを取り巻く状況は、当分の間、長い夜。

「農」への国民の関心をいかにして高めるか
昨日(21日)、臨時国会が閉幕した。会期はわずか16日間。そして、長い冬休み。冬眠でないことを願っている。
日本農業新聞(12月22日付)は「首相が掲げる『新しい資本主義』や『デジタル田園都市国家構想』の具体像や政策が焦点となったが、農業・農村政策をどう位置付けるかの言及は乏しかった。論戦の舞台は来年1月招集の通常国会に移る」とする。
その年明け国会において、「農水省は『みどりの食料システム戦略』や農産物輸出、人・農地施策の推進に向けた法案を提出する方針」で、その審議動向も焦点となることを伝えている。
残念ながら、国民の「農」への関心は高まらない。当然、一票にしか興味を持たない議員も「農」に関心を寄せることはない。その流れに乗って、一般商業紙や各種メディアも取り上げない。
「農」に関する諸施策の前に、「農」そのものへの国民の関心を高めるためにJAグループは何をすべきか、組合員と役職員は真剣に考えねばならない。
酪農家の悲鳴
年末年始に向けて生乳が供給過多に陥り、約5000t(牛乳1リットルパック約500万本)を廃棄せざるを得ない恐れが出てきている。2014年ごろのバター不足以降、酪農業界は生産基盤を増強してきた。しかし、今夏は涼しい気候で乳牛の成育環境が良く、生乳の生産量が増加した。一方、この先は冬休みで学校給食の需要がなくなることに加えて、コロナ禍が追い打ちをかけている。酪農家からは悲鳴が上がり、業界団体などは牛乳や乳製品の消費を呼び掛けている。
東京新聞(12月21日付)は、「乳牛は毎日十分に搾乳しなければ病気になり、死に至ることもあるため、コントロールは難しい」としたうえで、生産者の声を紹介している。
千葉県八千代市の酪農家は、「生産者として廃棄は悲しい。(中略)牛の乳房は水道の蛇口ではなく、簡単にはいかない」と嘆き、「牛の餌になる米国からの輸入飼料も輸送コストがかさみ、夏から3割以上値上がりしている。ダブルパンチで、周囲では廃業を検討する人もいる」と訴える。
南房総市の酪農家によれば、「生産調整で牛を減らすと、戻すのに数年かかる。減らしすぎると、またバター不足みたいなことが起きる」とのこと。
農水省や業界団体のJミルクは「一日もう一杯牛乳を飲んで」とPRするほか、加工品製造のフル稼働を促している。金子原二郎農相と2人の副大臣が会見の場で、飲むヨーグルトを飲み干すパフォーマンスを見せたことも伝えている。(正直、政治家のやるこの手のパフォーマンスは、見ていて恥ずかしい。効果はゼロ)
茨城県小美玉市で開かれたイベントにおいて、主催者の小美玉ふるさと食品公社は、消費拡大で間接的に酪農業界を支えようと急きょ、ヨーグルト1200人分の試食を提供したそうだ。
最後に、向笠智恵子氏(フードジャーナリスト)が、料理への利用に加えて、「生産者に思いを巡らすような情報提供が必要。子どものころから給食だけでなく牛乳になじむような取り組みを考えてほしい」と、国や業界団体に注文を付けたことも紹介している。
必要なものを必要な形で必要な人に
向笠氏が言う「生産者に思いを巡らすような情報提供」の具体的あり方についてのヒントを教えているのが、河北新報(12月21日付)の社説。
今夏、国立成育医療研究センター(東京)などによる、新型コロナウイルスの感染拡大が子どもの食事に与えた影響調査は、「保護者が食材を選んで買う経済的余裕がなくなり、バランスに配慮した食事ができなくなる子どもが世帯収入の少ない家庭で多い」ことを明らかにした。
この指摘に注目し、「生鮮品が必要な家庭で得られる仕組みはできないだろうか」と考え、「学校休校時に給食食材を無駄にしないために家庭に分配したケース」から、「この枠組みの中で、コロナで生産過剰になってしまった生鮮品を安価に流通させることはできないか。生産者への新商品開発の助成制度などと併せる形で、生産過剰になったものを半調理加工するなどし、子ども食堂などを通じて廉価で提供するような仕組みはどうだろう」と提案している。
締めは、「18歳以下の子どもへの10万円分の給付も重要だが、必要なものが必要な形で必要な子どもに届く、行政の目配りも求められている」とする。
「生産者への思いを巡らすような情報提供」を行うためには、このような取り組みに生産者とJAグループが主体的に関わっていくことが不可欠である。そして、前回取り上げた、炊き出しを求める人たちに象徴される「生活困窮者」への食料支援に至急取り組むことが検討されねばならない。
前述の牛乳や乳製品なら、すぐにでも配ることができるはず。多くの困窮者と酪農家、そして乳牛が救われる。
「農」の世界を穢す人
毎日新聞(12月21日付)によれば、大臣在任中に現金計500万円を受け取ったとして収賄罪に問われた元農相の吉川貴盛被告は20日、東京地裁での被告人質問で、大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」グループの秋田善祺(よしき)元代表=贈賄罪などで有罪確定=から提供された現金について「政治活動を助けるという純粋な気持ちだと思った」と述べ、改めて賄賂性を否定した。
授受の場面を問われた吉川氏は、いずれも「申し訳ないが実は覚えていない」「記憶が定かではない」などと答えた。ただ、大臣就任前後にも盆暮れのあいさつとして現金を受け取っていたとし、「秋田さんがおっしゃるならば私もそう思う」と現金の受領は認めた。現金授受後、養鶏業者と農水省、国会議員の3者による異例の緊急陳情会議が開かれたなどとする検察の主張に対し、吉川氏は「3者での会議は四六時中行われている。特別なことをした認識は全くない」と述べ、便宜を図ったことを否定した。
政治家の常套句、「記憶にございません」の連発のようだが、お金を出した方は賄賂として何度となく渡している。「魚心あれば水心」という言葉を思い出すのは当コラムだけだろうか。穢(けが)しすぎた晩節は、元にはもうケ・エ・ラ・ン。
「農」の世界の穢れを払しょくしない限り、国民の理解は得られない。そして、「長い夜」も明けることはない。
「地方の眼力」なめんなよ
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