続々・変わらない農村女性【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第177回2021年12月23日
高度経済成長の農村部への波及のなかで、女子型の零細企業が農村のあちこちにつくられ、嫁さんもそこに働きに行くようになった。そのころ、ある村を訪ねたとき案内してくれた農協職員の方がこんなことを私に言った。
あそこの嫁さんは近くの工場に働きに行っている。経営規模の大きい農家で農業専業で十分に食っていけるのに、家でゆっくり農作業でもしていればいいのに何たることか。低賃金のパートでしかないのにそんなわずかな金でも欲しいのだろうか、高度経済成長の影響を受けて金を得ることだけを考えるようになったのは嘆かわしいと。
これに対して私はこう言った。金の問題ではないのではないか。毎日毎日舅姑(きゅうこ)と顔をつきあわせ、一日中家のなかと田畑にいて他人とまともにしゃべらないでいたら息が詰まってしまう。ところが誘致企業などに働きに行くと、同年代の女性はもちろん上の年代、下の年代もいる。多くの仲間と働き、休み時間にいろいろなおしゃべりができるのは本当に楽しい。これは金にかえられない喜びだ。同じ仲間といっしょに働きたい、雑談したい、笑いあいたい、これは共同の動物である人間としては当然のことだ。まわりでああだこうだ言わないで暖かく見守ってあげたらどうかと。
こうした閉じ込められた状況の下では女性は社会性をもち得なかった。
これに対してまだ男の方が社会性があった。ともかく外に出ており、多くの人と付き合っているからである。たとえば、みんなそれぞれ癖があるのでそれはそれで認め合いながらいっしょにやっていくより他ないのだなどと考える。また多くの人とのつきあいによる刺激で新しいことをやろうとも考える。
ところがそうした社会性のない女性はそんなことは考えない。隣近所しか見られないから、その一挙手一投足を見て悪口を言うより生きがいがなかった。そして足を引っ張る。女性自身が非常に古い体質をもっていた、というよりもたされていたのである。
「戦後強くなったものは女と靴下」だと言われたが、農村ではまだまだ女性は弱く、とくに嫁の立場は弱かった。もちろん、それは都市においても商工業においても基本的なところでは同様だったのだが。
とくに商店の嫁などは、程度の差はあるが、農村の嫁と同じだった。
大企業に勤めに出た女性もさまざまな差別を受けていた。たとえば女性が結婚すれば退職させるのが当たり前だった。女性もそういうものだと思って辞職願いを出した。結婚しても平気で職場に残ったのは教師くらいのものだった。また教師の場合は女性も校長や教頭などの管理職になれた。しかし他の職場で女性が管理職になるなどということは考えられなかった。もう一つ女性が管理職になれたものに大病院の看護婦の婦長があった。ただしこれは女性だけの職場での管理職であり、男子も部下に持つ校長や教頭とはまるっきり違うし、それ以上には絶対になれないものでもあった。
といっても大学もいばれたものではなかった。かつての私の職場の東北大には女性の研究者などほとんどいなかった。東北大は戦前に女子の入学を許可し、女性に門戸開放したわが国最初の大学(旧帝大)だったのだが、それにもかかわらずである。これはそもそも女性がきわめてわずかしか大学に入学せず、研究教育の後継者として育たなかったことも一因となっているのだが。ついでにいえば、民主主義の社会になったとはいえ、大学の体質はまだまだ古いものだった。医学部などはその典型で、山崎豊子の書いた小説『白い巨塔』に描かれている以上の封建的なものだった。この大学の封建「性」について書けばきりがないのでやめるが(テレビドラマ「ドクターX」はそれを戯画化して描いているが、まああれに近いものだった)。
男女同権は法では保証され、言葉としてはよく言われるようになったが、中身はまだまだともなっていなかった。
1969(昭44)年、奥村チヨは『恋の奴隷』(注1)でこう歌った。
「悪い時は どうぞぶってね
あなた好みの あなた好みの 女になりたい」
それから4年後、殿さまキングスの『涙の操』(注2)が流行った。
「あなたの決して お邪魔はしないから
おそばに置いて ほしいのよ
お別れするより 死にたいわ 女だから」
これをどう解釈するかはここではおこう。
ともかく女性が生き生きと輝き始めるのにはまだ時間が必要だった。やがて輝けるようになってきた。しかし、そのころには輝くべき女性、とくに若い女性が農村にいなくなっていた。
このことについてはまた後に語ることにさせていただき、次回からは「減反」問題から始まる1970年代の農業、農村について話をさせていただきたい。
(注)1.作詞:なかにし礼、作曲:鈴木邦彦、1969年
2.作詞:千家和也、作曲:彩木雅夫、1973年
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