瓢箪から駒になった「お米のかりんと」【熊野孝文・米マーケット情報】2021年12月28日
年間受け入れ額が6725億円(令和2年度実績)にも達したふるさと納税。返礼品に規制がかかり勢いが衰えるかと思いきやその気配はなく、2年度は前年比1・4倍に拡大している。税収が増えた自治体の第1位は宮崎県の都城市で、なんと135億円にもなる。その一方で税収が減った自治体もある。その筆頭が横浜市で177億円も減ってしまった。その横浜市は、魅力ある横浜土産を発掘する取り組みを行っており、年明けに第19期の受賞作品が発表される。その中に横浜で生産された「さとじまん」という品種を原料米に使用したかりんとうが入っている。この商品をふるさと納税の返礼品に加えれば少しは税収減に歯止めがかかるのではないかと期待されている。
「量販店で精米価格を下げても売れ行きが芳しくない」というぼやきの声が聞かれるコメ業界にあって、鼻息が荒いのがふるさと納税の返礼品として扱われるコメ。自治体に協力してコメを返礼品として扱っている米穀業者の中には、扱い額が自社で販売するコメの7割、7億円にもなっている業者もいる。まさにふるさと納税様様といった状況。この自治体のコメはふるさと納税扱いランキングで1位、2位というランクで、精米商品のほかパックご飯も返礼品に加えており、この商品も人気があるため、なんと自治体自らパックご飯工場を作ろうと言い出しているのだから勢いが止まらない。
ネットでふるさと納税の返礼品に採用されているコメを検索してみると実に詳細な情報が出ている。返礼品の重量別や無洗米、もち米、玄米、さらには産地銘柄別など種類別にどこの自治体が得なのかランキングが詳細に出ている。ちなみに1万円寄付では17kgのさがびより、16kgの阿蘇だわらなど。重量別では120kg以上貰える返礼品まで出ている。種類別でコストパフォーマンス最強ランキングでは、無洗米では「ほたるの灯」で1万円で15kg、玄米は「土浦産コシヒカリ」で1万円で15kg、餅は「長岡産杵つき餅」で1万円で6.4kg、パックご飯は「福岡県産夢つくし」で1万円で6.4kgと言った具合。
なぜこれほどまでにふるさと納税の返礼品に人気があるのか? 分かり易い例えがネット上に出ている。「寄付額が高ければ、返礼品も豪華になります。さっと調べてみたら、500万円寄付 返礼品お米250 kg !!なんてものもありました(笑)もちろん次年には499万8000円が減額されるので、なんと2000円でお米250kgを手に入れられることになります」
こうした記述を読むとふるさと納税の仕組みは何とも不思議な仕組みだが、手続きさえ簡単にしてしまえば購入する消費者にとって得なのだから勢いが止まらないのも無理はない。商社の中にはこの制度をビジネスチャンスとして捉え、あちこちの自治体に働きかけ、地域の商品の掘り起こしから受注・配送まで一手に引き受けようというところさえある。
横浜市の場合、税収がこれ以上減るのを見過ごすわけにはいかないのでなんとしなくてはいけない。もちろん横浜市もふるさと納税返礼品を用意しているが、それらは中華街の食品セットばかりである。そこにコメ加工品としてかりんとうが登場したのだが、そのウリは「横浜市で生産されたコメを原料米にする」と言う点。横浜でコメが作られていること自体が意外だが、元々は農村地帯だったので今でも750tほどのコメが生産されている。さとじまんは農研機構が育種した品種であまり知られていないが、このコメを米粉用米として契約栽培してかりんとうの原料にした。面白いのは出来上がった商品は「横濱お米かりんと珈琲」と「横浜お米かりんと麻辣」の2種類があるが、珈琲は地元横浜で創業された三本珈琲のコーヒーを使用しているので横浜産品には違いない。
それにしてもなぜ米粉でかりんとうを作ろうと思ったのか? 第一はこの会社の経営者が「コメは商品開発を怠って来た」と言うのが持論で、社内に事業開発部門を立ち上げ、新しいコメ加工食品づくりを手掛けるようになった。商品の中には胚芽分を多く含んだコメを特殊な加工で食べやすくした玄米や冷凍米飯を7色に色付けした炊飯米、ライスハンバーグ用のライスプレートといったものもある。かりんとは当初、精米工場で発生する糠等の副産物の有効活用を目的に開発されたものだが、かりんと市場はニッチな市場で、コメを原料にしたもので市場開拓できるのではないかという目論見で米粉用米として契約栽培するに至った。それが横浜市のお土産商品として受賞商品になるのだからなんでもやってみるものである。もうひとつ画期的なコメ加工食品の開発を計画しているのだが、それは出来上がった際に紹介したい。
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