「ひこばえ」がプラスティックの原料米になる日【熊野孝文・米マーケット情報】2022年3月15日
「ひこばえ」という言葉を知らないコメ業界の人も多くなった。ひこばえとは漢字で蘖と言う難しい字を書く、邦字では孫生えと書き表せる。いわゆる二番穂のことで学術的には再生稲と称される。この再生二期作稲の栽培方法のことを知ったのは2年前に農研機構/九州沖縄農業研究センターが10a当たり1.5tの収量を上げたというニュースを報じたからである。
今年、コメをプラスティックの原料にしようという二期作の試みが福島県浪江町で始まる。
浪江町で再生稲の栽培に取り組む会社は、(株)バイオマスレジンホールディングスのグループ会社でコメ作り等を行うために昨年設立された(株)スマートアグリ・リレーションズ(福島県双葉郡浪江町 中谷内美昭社長)である。同社は、昨年浪江町の水田4haでコメ作りを行い30t生産した。今年は10haに面積を拡大、その中で低コスト稲作の一つの手段として再生稲のテストを行う。一般的なコメ作りと違う点は、使用用途がプラスティックの原料になるライスレジンを生産することで、主食用米と違い食味は関係ないため「収量を最大限アップする」ことを最大の目標にしていることである。このため低コスト栽培方法として再生稲栽培だけでなくドローンによる直播など最新の栽培技術の適用の可能性を検討している。
そもそもコメ原料のプラスティックとはどういうものかと言うと、分かりやすく言うとコメを糊化させてそれに樹脂を混ぜてライスレジンという商品を作る。プラスティックは温めると柔らかくなり冷めると硬くなるが、コメも同じように糊化させ温めると柔らかくなり冷めると硬くなる。こうした共通する特性があるためバイオマスの原料としてコメは適性が高いという。コメを原料にして樹脂を混ぜたライスレジンの特徴は①国産米を使用したプラスティックである②価格は石油系プラスティックと同等(ポリ乳酸、バイオポリエチレン等より安価)③インジェクション成形はもちろん、インフレーション、シート成形など各種成形が可能という3つのメリットを上げている。各種成形が可能だという事で汎用性が高く、レジ袋からスプーン、ナイフ、皿、ランチボックスなど食事用品、収納用品、おもちゃなどにも使われている。中でも赤ちゃん用の「お米で出来たおもちゃ」は130万個も売れるヒット商品となっている。石油系プラスティックの削減はいまや世界的なうねりになっており、日本も2030年までに約200万tを削減するという大目標を掲げている。こうしたうねりの中で同社の目標も高く、2025年までにバイオプラスティックを10万t供給するという目標を立てている。すでに南魚沼工場で年間3000tを生産しているが、今年秋口には福島県で第二工場や竣工、続いて熊本にも工場を建設する計画で将来的には国内で10工場に加え海外でも製造拠点を設けるという大きな構想を描いている。
設立当初に使用していた原料米は2019年の台風19号で水害に遭った栃木県などの被害米やコメ加工品メーカーの搗精(とうせい)過程で発生する砕米、さらには酒米搗精で発生する吟醸粉などを使用していた。南魚沼に工場を建設したのもこうした新潟県が日本一のコメどころで原料米が手に入りやすいと判断したことによる。しかし、将来的に10万tものライスレジンを作るとなるととてもそうした低品位の原料米だけでは賄いきれない。そこで同社は政府備蓄米やMA米の買受を農水省に打診する一方で自らもコメ作りに乗り出すことにした。新潟県では南魚沼の他、委託契約として三条市にも原料米栽培地がある。
福島県浪江町では営農組合に委託生産してもらうほか自社で農業生産法人を立ち上げてコメ作りを行う方針で、最終的に「IoTなどを活用して無人でコメ作りを行うこと」を目標にしており、CO2の削減とともに耕作放棄地の活用にもなるというのが同社の主張。
特筆すべきは生分解性プラスティックの研究・開発も進めており、その商品名は「ネオリザ」と名付けられている。この商品は自然界に存在する微生物でCO2と水に完全に分解されるというもので海洋汚染問題を解決できる究極のバイオマスプラスティックである。ネオリザが全てコメで出来るようになれば、その需要は計り知れない。農水省が言うところの「非主食用米」と言う表現にピッタリ当て嵌まる用途になる。
コメの新しい用途として俄然関心が高まっている「ライスレジン」は生産・需要の双方で問題解決の切り札になる可能性もある。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
飼料用米、稲WCSへの十分な支援を JAグループ2025年10月16日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】本質的議論を急がないと国民の農と食が守れない ~農や地域の「集約化」は将来推計の前提を履き違えた暴論 ~生産者と消費者の歩み寄りでは解決しないギャップを埋めるのこそが政策2025年10月16日
-
死亡野鳥の陰性を確認 高病原性鳥インフル2025年10月16日
-
戦前戦後の髪型の変化と床屋、パーマ屋さん【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第360回2025年10月16日
-
「国消国産の日」にマルシェ開催 全国各地の旬の農産物・加工品が集合 JA共済連2025年10月16日
-
静岡のメロンや三ヶ日みかんなど約170点以上が「お客様送料負担なし」JAタウン2025年10月16日
-
高齢者の安全運転診断車「きずな号」を改訂 最新シミュレーター搭載、コースも充実 JA共済連2025年10月16日
-
安心を形にした体験設計が評価 「JA共済アプリ」が「グッドデザイン賞」受賞 JA共済連2025年10月16日
-
東京都産一級農畜産物の品評会「第54回東京都農業祭」開催 JA全中2025年10月16日
-
JA協同サービスと地域の脱炭素に向けた業務提携契約を締結 三ッ輪ホールディングス2025年10月16日
-
稲わらを石灰処理後に高密度化 CaPPAプロセスを開発 農研機構2025年10月16日
-
ふるさと納税でこども食堂に特産品を届ける「こどもふるさと便」 寄付の使いみちに思いを反映 ネッスー2025年10月16日
-
「NIPPON FOOD SHIFT FES.」に出展へ 井関農機2025年10月16日
-
マルトモが愛媛大学との共同研究結果を学会発表 鰹節がラット脳のSIRT1遺伝子を増加2025年10月16日
-
マックスの誘引結束機「テープナー」用『生分解テープ』がグッドデザイン賞を受賞2025年10月16日
-
北海道芽室町・尾藤農産の雪室熟成じゃがいも「冬熟」グッドデザイン賞受賞2025年10月16日
-
夏イチゴ・花のポット栽培に新たな選択肢「ココカラ」Yタイプ2種を新発売2025年10月16日
-
パルシステムの奨学金制度「2025年度グッドデザイン賞」を受賞2025年10月16日
-
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月16日
-
鳥インフル デンマークからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月16日