(274)「風が吹けば...」ニュースが伝えない穀物高騰の背景【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年3月18日
ユーラシア大陸の東端にあり、北米からの穀物輸入を中心としている日本では、中央アジアのさらに西の黒海や地中海地域の動向は体感としてわかりにくいと思う人が多いかもしれません。しかし、国際情勢の変化は世界と日本の穀物貿易にも大きな影響を与えています。
2022年2月24日以降の国際情勢が穀物輸出にどのような長期的影響を与えるかは、依然として不透明な要素が多い。しかし、過去3週間に穀物価格が急騰したことは事実である。
例えば、国際穀物カウンシルのデータによると、米国産トウモロコシのガルフ(メキシコ湾)での輸出価格は2月中旬まではトン当たり300~320ドル程度であったが、3月11日には375ドルへ急騰している。過去1年間の最安値245ドルからは実に53%の増加である。
ウクライナとロシアの両国は世界のトウモロコシ輸出の2割弱を占めるが、黒海の港湾施設が使えず、いわば血液の流れが止まった結果、流通にも多大な影響が生じている。
最近はWebでいくらでも詳細な世界地図を見ることができるため、ここから先は是非とも地図を見ながら確認してほしい。
穀物貿易を知る人間には黒海と言えばクリミア半島東のアゾフ海に面したマリウポリの港がすぐに思い浮かぶ。この名前、最近のニュースでは被害の話(例えば、産科病院爆撃など)が連日報道されているのでご記憶にあると思う。「ひどいものだ、大変だ...」と感じた方が多いのではないだろうか。ウクライナ北部のハリコフが首都キエフに近いというだけでなく、モスクワからクリミア半島に至る南下の重要通過点であると同様、マウリポリはヴォルゴグラード(旧スターリングラード)からクリミア半島に至るこれも陸路の重要中継点としての紹介が中心であり、この町の港湾施設が持つ意味に関して説明しているニュースはほとんど無かったようだ。
マリウポリは、アゾフ海における穀物輸出の最大拠点であり、ロシアとウクライナはこの港から小麦、大麦、トウモロコシ、ヒマワリ油などを輸出している。マリウポリからの輸出が不可能な場合、陸路を東にとりカスピ海経由で近隣諸国への輸出は可能だが、その場合は地理的に近い中央アジアや中東の国々向けなどが対象となる。だが、地中海沿岸・北アフリカ諸国への輸出は相当な迂回をしなければならない。
マリウポリだけでなく、クリミア半島の西側にあるオデッサも含め、黒海を経て地中海沿岸に至る輸出ルートは大昔からの海上輸送の大動脈である。輸入国はこれを代替するためには南半球から新穀が出るまでの数か月、どこかから必要量を手当するしかない。そうなると北米、つまり米国産トウモロコシ...、ということになる。これがシカゴのトウモロコシ価格が急騰した背景にある。
もちろん、この地域で重要な穀物はトウモロコシだけでなく小麦や大麦がある。実際、小麦は世界輸出の4分の1を両国が占めているが、EUが小麦や大麦の大輸出地域でもある点がトウモロコシとは大きく異なる。
つまり、穀物輸出という目で見た場合、ウクライナとロシア以外に、小麦では北半球にEUと米国、大麦ではEUとカナダがあるため影響が比較的緩和される。ところが、トウモロコシはウクライナとロシア以外の北半球の大輸出国は米国だけであり、他の2品目とは根本的に異なる。そして日本のトウモロコシ輸入は米国にほぼその全てを負うている...という構図だが、他に安定した供給国が無い以上、これはやむを得ない。
現代社会ではトウモロコシの用途は飼料用に限らず工業用途も多い。日常生活を良く見れば、トウモロコシを原材料の一部とした数多くの製品に気が付くはずである。
黒海の港の活動が止まると、日本の輸入価格が高くなる...、これが現代版「風が吹けば桶屋が...」であり、「繋がり」の現実である。
* *
穀物輸送について一言も言及しないニュースから現実を見抜くのは大変ですが、少しだけ視点を移すと、どうしてこうなったのかがよくわかるのではないでしょうか。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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