(277)新学期と学生たちの"素顔"【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年4月8日
新年度が始まり、各所で新しい動きが出ています。大学でも今週は入学式からオリエンテーションが続き、その後に新学期の講義が始まります。
新型コロナウイルス感染症の拡大から3年目の春だ。今年の大学新入生達は高校生活の2~3年を感染対策の中で過ごしている。修学旅行や部活など、そして何よりも友人たちとの毎日の何気ない会話や活動の制限など、それまで普通に行われてきた多くを断念せざるを得なかったことは非常にやるせない気持ちになる。
昨年あたりからようやく社会活動が通常に戻りつつある中で、教育現場でも様々な取り組みが行われてきた。是非とも可能な限り大学生活や社会人生活においては当たり前の「日常」を取り戻して欲しいと心から思う。
ところで、企業におけるテレワークと同様、オンラインでの講義や会議が一定程度普及したのはコロナ禍で進展した数少ない良いことだと個人的には感じている。人と人との対面による会話に勝るものは無いが、様々な事情により会議や会合に参加が出来ない人も多い。オンライン会議や遠隔授業が普及したことのメリットの1つは、こうした人達との打ち合わせなどが容易になったことだ。
会議や打ち合わせなどの中で本当に落としてはいけないポイントは意外に限られている。その中には直接相手の表情を見ながら説明を聞くことにより言葉では言い表されない数多くの意味(非言語情報)がある。したがって、パソコンや携帯のディスプレイの中とはいえ、相手の表情を見ながらの打合せが可能になったことは地理的距離という太古からの障害の1つが克服されたことを意味している。
デメリットは、時間差というメリットにもデメリットにもなる要素がどうも生物としての人間にはデメリットとして作用するケースが多いことかもしれない。同じことは携帯電話やEメール、GPSが普及した時にも言われた。要は24時間365日、付きまとわれることのメンタル面での負担である。これは意外と大きい。
単純な文字情報だけであれば見逃すことが出来たものが、画像や位置情報が伴うようになると次元が異なる。嫌な言い方だが、今後はディスプレイの画像から相手の反応だけでなく、健康や心理状態までを見抜く技術などが次々と普及・実用化されていく可能性が高い。こうした技術は、農産物の品質判断や、無医村地域における簡易な診療などに応用されるとメリットが大きいが、某国のトップの健康状態などになると必要な世界では極めて重要な情報としてやり取りされるのであろうが、余り喜ばしいものとは言えない。
その先はアバターによる仮想現実の世界かもしれないが、本当にそれで良いかどうかはわからない。幸か不幸か今のところ、多くの現場では依然として、手書きや紙の書類の物理的やり取りがまだ続いている。
たまたま大学という環境にいるため、筆者個人の仕事ではここ10年ばかりの間に紙から電子情報への切り替えが急速に進展した。こうしたコラムも「書く」のではなく100%「打ち込む」状況だが、それも近いうちに「話す」だけになるであろう。
それにしても、多くの学生がマスクをしていると、教員からは学生の判別が難しい。「目は口ほどにモノを言い」とはいうものの、目元だけで個人を特定するのは相当な訓練が必要である。筆者の講義は2年生からのため、現在の3年生は入学以来ずっとマスク顔しかわからない。このまま今後2年が過ぎると素顔がわからないまま名前と目元だけで「教え子」と認識する学生が100人単位で出る。
古代中国や古代日本では「本当の名前」は徹底的に隠していたようだから、現代日本ではその代わりに素顔が隠されていると思えば、ヒトはコロナにより益々臆病になったということかもしれない。
* *
過去2年間で「顔を覚える」という対人関係や認知の基本的な能力が相当低下した気がしていますので、まずはそこから回復させないと...、ですね。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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