【浅野純次・読書の楽しみ】第75回2022年6月20日
◎ジェーン・グドール ほか『希望の教室』(海と月社、1760円)
共著者のダグラスの絶妙な問いかけによっ て、ジェーンが自らの学問的な体験談や人生観を縦横無尽に語り尽くすという構成の本です。小難しい話はほとんどなく、自然観察やエピソードが混在する軽い教養書と呼べるかもしれません。
ジェーンはチンパンジーなどの世界的な動物行動学者で、87歳にもなる今も、アフリカはじめ世界中を飛び回って研究や講演活動を行っているスーパーウーマンです。
本書は何か希望が湧いてくる特別の方法を教えてくれるわけではなく、とくに若者に増えている無気力や怒りから遠ざかって、どうしたら自ら希望をもって行動できるか、を考えようとします。
中心テーマに挙げられるのは、なぜ著者が希望を捨てずに地球の未来を考え続けられているか、です。希望を信じる根拠として挙げられるのは、「人間のすばらしい知力」「自然の回復力」「若者の力」「人間の不屈の精神力」の四つで、対話の中からそれぞれのイメージが明確になってきます。
ジェーンは講演の最後に聴衆にこう唱和を求めるのだそうです。「一緒ならできる。一緒にやろう!」と。
Together we CAN!
Together we WILL!
地球環境にとどまらず、協同組合にも通じる話かもしれません。
◎土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書、902円)
有名な料理家の本ですから、料理のうんちくがたっぷり語られるものと思って手に取ったのですが、基本的には料理研究家の父親のもとで修行し、以後、メディアなどで活躍していく半生記でした。でも著者が本書で語る大事なことは、素材の重要さについてです。
兵庫県篠山町農協からの委託で直営レストランをつくった体験談では篠山の特産物を使う話、長野県小布施町で山菜の味にショックを受けた話、関西の篤農家から季節感あふれる野菜を分けてもらう話、そんな料理研究家としては今では当たり前のような話も、当時としては貴重でした。
料理そして素材を考えるとき最も重要なことの一つが季節感と鮮度だという、消費者がついつい忘れがちなことが料理のプロから聞かされると改めて新鮮に聞こえます。これは供給側にとっても重要なこと。米、果物、漬物、話は広がります。
そうやって読み進むと、一汁一菜の勧めもすんなりと腑に落ちます。そんなわけで食と素材について考える良い機会となりました。
◎阿刀田高ほか『本からはじまる物語』(角川文庫、726円)
最後はまたまたアンソロジー(短編集)です。ただし今回は食でなく本が共通テーマ。全部で18編なので平均12ページ前後とごく短い。とはいえ短いからこそひとひねりしてあるものばかりで、読み終わるとほんわかしたり、不思議な感覚が残ったりして、本がいとおしくなってくるように感じるものも。
本だけに本屋さんや古本屋さんが舞台になるケースが多く、棚に並ぶ本の配置が伏線になっているものがいくつかあったのは、さもありなんといっては作者に失礼かしらん。
ネタばれしてはいけないので詳しくは書きませんが、本が飛ぶ話が多かったのは、本の姿かたちと本の魅力とを掛け合わせた結果の想像力でしょうか。
飛んで行く本、飛んで来る本、逆方向ですがどちらも楽しい。うまくすると自分でも童話風に書けるかも、と思わせるところも読書の楽しみです。小学校高学年なら、お子さん、お孫さんへのプレゼントにもなるのでは。
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