事業利用上の組合員の「平等性」を「公平性」に変更しよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年6月21日
JA組織運営上の「平等性」と事業活動
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
協同組合は、「一人一票」の原則があり、組合員の平等は、長い歴史のなかで、組織運営上の大切な原則として守られてきました。事業を営む組織としては、出資金額に応じて議決権を有すると考える組合員も存在しますが、むしろ、それが株式会社との違いとして貫かれてきたといえるでしょう。
組合員に対する平等性の堅持は、組織運営上は当然のことでしょう。しかし、事業運営上もこの組合員平等性を守るべきなのではないでしょうか。こんな私の疑問に対して、JAの戦後史の研究者は、次のように解説してくれました。
戦後間もなくの農地改革によって、多くの自作農が誕生し、一概には言えないまでも、経営規模も均一なコメ作り農家が農業協同組合の組合員となります。したがって、組織運営の平等性は、そのまま事業運営においても違和感なく採り入れられたのではないか、と。
1960年代以降になると、日本経済の急成長とともに、都市や都市近郊では、離農農家が増え、農地が工場用地や住宅地に変わっていきます。わずかな農地で農業を営む農家もあれば、規模を拡大し、野菜や果樹、畜産などの新しい経営に挑戦する農家が生まれ、まさに、多様な農家の時代を迎えます。
ところが、組織運営上の平等性はともかく、事業活動における平等性も根強く残ります。経営規模の大きな農家であっても、生産資材の価格や事業の各種手数料、農業資金の金利などでの優遇処置を実行するJAは少なかったのです。その結果、JAに不満を抱き、離脱する大規模な農家や農業法人を生み出してしまったのです。
拡大する組合員の事業利用の「度量」格差
多様化する農家への多様な対応は、避けられない事態となっていました。各地のJAで目にしたのは、組合員農家への事業上の平等な対応が、経営規模の大きい農家のJA離脱問題だけでなく、そもそもJAの事業伸張を抑え込むことになるという深刻な問題をはらんでいたのです。
多くのJAの場合、事業運営上の平等性が改革できないのは、理事会の大勢が大きな役割を果たしていたのです。特定の農家や農業経営を優遇することは協同組合としての平等性の原則に反する、という考え方です。戦後間もなくの農村の状況を前提にした組織運営と事業運営を一体のものとして考えてしまったのです。JAの理事会には、この考え方が、不動のコンセンサスとして、根強く残存してしまったといえます。
そこで、コンサル先のJAでは、理事会に乗り込んで、勉強会を開催しました。JAの事業におけるマーケティングを学んでもらうこと、組合員との事業取引やJAの事業伸張に関する考え方でした。そして、ビジネス・ツールのなかでも、良く知られている「ABC分析」による組合員の事業利用の実情を説明し、理事会が先頭になって「平等から公平」への転換をしましょう、とお願いしたのです。
この理事会メンバーへの学習会は、支店の再編や事業施設の整備、中長期の事業計画の策定などにも及びました。その結果、たとえば、農業経営に関していえば、大口利用優遇措置や指導面における特別経営指導体制の整備など、先進的で地域農業を牽引するような農業経営への特別支援を行うことで、その経営は急激に成長していきます。同時に、JAの販売高、経済事業の供給高、農業資金の貸出しなども伸びます。規模拡大をめざす組合員も増えていきます。
一般論として、ABC分析による組合員の事業利用の実態を具体的に説明します。JAの事業量の8割は、わずか2割前後の組合員であるということです。反対に、2~3割の組合員は、JAをほとんど利用していないのです。ABC分析を"2:8の法則"と呼ぶこともありますが、これがJAの実態なのです。
このような状況で、事業利用における平等性の堅持し続けることは、前向きな経営を営む組合員の農業経営者の経営意欲を失わせ、JAに失望し、離脱行動を促します。その結果、JAの販売事業や経済事業などの事業伸張も図れず、連年、取扱高が減少を続けるのです。
私は、組合員の事業利用上の「度量」格差がどんどん拡大していると考えています。「度量格差」とは、JAの事業利用度、事業利用量のことで、組合員格差が大きく拡大しています。事業利用上の「平等性」から、「公平性」に転じることです。いずれ、この課題への対応策を書く機会を持ちたいと思っていますが、言葉足らずで誤解を招きかねない怖さがあります。
組合員の事業利用を平等に扱う方が、JAは対策を考えることがないので「楽」なのです。もう「楽」は許されない。この対策を急がなければ、大口利用の組合員はJA離脱へ、小規模経営の農家のJA頼りが強まり、JAの農業関連事業は縮小傾向が強まり、地域農業振興は絵に描いた餅になるという事態が進行していきます。
◇ ◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日