将来を見すえた"子ども食堂"に取り組もう!~子供の貧困問題とのかかわりを~【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年6月28日
日本の子どもの貧困率、先進国で第3位
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
私的な話で恐縮だが、20年前、訳あってベトナムの女児の養育支援者に依頼された。20歳になるまで毎月振り込んだお金がどれほど役立ったかは不明です。でも、彼女は高校、看護専門学校を卒業して、今年、家庭をもったと感謝とともに連絡がありました。
数年前に、簡単な手紙のやり取りだけだったから、彼女の成長を確かめたいと思っていた矢先、コロナの世界的な感染流行でチャンスを失ってしまった。
選挙期間中だから書くわけではないが、20数年前に比べ、日本は他国の子供の支援どころの話ではなくなり、"尻に火"の状況。先日、公表された内閣府の「子供の貧困」調査結果(「令和3年子供の生活状況調査の分析報告書」)は、国の初めての調査だが、内容は想像を超えるショッキングな内容。
詳細を紹介する紙数がないが、経済的な状況の回答で、「準貧困層」は全体の36.9%、「貧困層」は12.9%。これが「ひとり親世帯」では「貧困層」が50.2%、「母子世帯」では54.4%という驚くべき数字なのです。
先の2020年の国勢調査では、ひとり親の世帯は全世帯のなんと9%を占めます。増え続けるひとり親世帯の貧困問題は深刻さを増していて、この状況が、子どもの虐待やヤングケアラー、子どもの人権侵害などの問題を生起させ、問題を複雑化、困難化しています。日本の子どもの貧困率は、先進国中第3位で改善されていません。
ちなみに、先の内閣府の調査で、シングルマザーの世帯は過半数以上が貧困の問題を抱え、「過去1年間に必要とする食料が買えなかった経験があったか」という設問には、「よくあった」「ときどきあった」「まれにあった」という回答の割合が53%に及ぶとあります。
子どもの貧困問題の解決を、政治に期待していては、前に進めないばかりか、問題を深刻化させてしまうことに気づく必要があるかもしれません。
期待したい、JAと組合員での「子ども支援活動」
私は近所の子ども食堂への支援を続けてきているが、個人の物的経済的な支援活動には限界があると思う。継続は力かもしれないが、時間が解決してくれるとは思えない。現状や過去から引きずる問題に、絆創膏を貼るようなことで、いまひとつスッキリしない思いだったのです。ただ、この子ども食堂の活動は多くの人びとの共感と協力のもとに、全国に急速に拡大することになりました。
ところで、NPO法人全国子ども食堂支援センター・むすびえが2021年に公表した調査結果によれば、子ども食堂の設置数は全国で6,014か所。2018年の同調査から2.64倍への急増しました。当然ながら、大都市での設置数が多く、上位は東京都、大阪府、神奈川県の順。近年は、大都市以外の府県にも急速に広がりつつあるという。
今年2022年は子ども食堂が誕生して10周年の記念すべき年。ちなみに、2022年3月時点で、全国のJAで子ども食堂に関わっているのは182のJAのようだ(JA共済総合研究所「共済総研レポート」No.181)。
JAの組織・事業を考えれば、率直に言って、子ども食堂に関係するJAが少ないという印象は避けられない。もっとJAが関わってほしいと思うし、組合員や組合員組織とともに、やれること、できることがあると思っています。
子ども食堂を「食事支援」の活動と理解して、「コメを寄付する」行動だけでは、それでお終いになってしまう。子どものための胃袋を満たす食堂という狭い考えではなく、地域に広がる問題を解決する「価値ある場」にしていく。多くの課題を抱える農村地域や地方都市など、地域社会に人や笑顔、元気を呼び戻すチャレンジングな活動と考えれば、関わり方も見えてくるし、将来への可能性も明らかになるのではないか、と。
それを論理的に提起している前出のNPO法人・むすびえの理事長で、東京大学特任教授の湯浅誠氏の話を最後に紹介したい。共感できる、示唆に富む部分を引用します。
「こども食堂は、今年2022年で誕生10年だが、あと5年、10年したら、ここが地域人材の育成の場だった、地域の担い手を輩出する場だったとはっきりするだろう。地域のつながりづくりとは関係づくり、地域の中での関係人口を増やそうという試みでもある。それは、今の時点での横のつながりを広げ深めることを通じて、未来への縦のつながりを広げ深めようとしている。だからこども食堂は地域の未来を照らし出す取り組みだ。地域に食べられない子がいるからやる、といった取り組みではない。地域は高齢者ばかりで、子どもは少ない。大人に混じって子どもたちがいる、といった感じだ。それゆえ実態は「こども食堂」というよりも「地域食堂」「みんな食堂」だ。それでも「こども食堂」だと言っているのは、漠然と地域みんなのためと言うよりも、子どもたちのためと言った方が、地域の人たちから引き出される力の総量が大きくなるからだ。」
◇ ◇
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